川柳カモミール2 ➁

川柳カモミール2 ➀


難解と厄介ヒメジョオンぴんく  滋野さち

「難解」と「厄介」の意味の違いを100文字以内で述べなさい、という問題が出たとしたら、なかなか難解かつ厄介です。また、ヒメジョオンとハルジオンの見分け方を100文字以内で述べなさい、という問題が出ても答えられない気満々であります。そもそも名前からして似ている。命名した人は、後世のひとを混乱させてやろうとしてわざと似た音感にしたのかしら。だいたいわたしは、花のことをほとんど知りません。歌会でも、花の歌の鑑賞で「ぐぬぬ……」と難儀していますと、「あ、君は花のことは駄目だったんだね」と気を遣われ、隣のひとと交代させられる始末です。

ところで既成の川柳界では、〈難解句〉という言葉がよく使われます。川柳界では一読明快を掲げている吟社が多く、佳句は一読明快、難解句に佳句はなし、といわれるばあいもあります。わたしも、面白ければ一読明快に越したことはないと思っているのでそれに反対はしませんが、ただひとつ、想像力を駆使する余地がない川柳は難解ではないが厄介だ、と思っています。花のことは恥ずかしながら分からないのですが、こっちは断定形でいえるのです。


「笑」の筆順 生きづらさの笑窪  三浦潤子

上のパートをみてみましょう。「笑の筆順」という表現からは先ず、生き方に〈生き型〉が用意され、それが「笑」につながっていた昭和時代を想起しました。おそらくそれは、先日テレビで山田洋次監督がこんなようなことをいっていたからだと思います。1960年代後半から1970年代前半にかけては、戦後の歴史の中で一番幸せだった時期なのではないか。当時は、人びとがいまより元気で活発だった。そして映画館でも、いまはやけに静かだけども、当時はみんなとてもよく笑っていた、と。わたしはその当時のことは語れませんが、昭和のプロレスリングやプロボクシング、キックボクシングなんかを見ると、観衆の熱気が凄まじことは分かります。アントニオ猪木vsストロング小林、ジャイアント馬場vs大木金太郎、藤原敏男vs西城正三なんて何事ですかあの熱気は! いまの観客も盛り上がってはいるのですが、熱気があるというよりもエンジョイしているという感じですね。彼らはおそらく、飽きたらすぐ別のエンジョイへと移れる器用さがある。だから、こころの深部はとてもニヒルなんです。

下のパートをみてみましょう。「生きづらさの笑窪」という表現からは、えもいえぬ重苦しさを感じます。笑窪ができているんだけど嬉しくない。生きづらい。いまは昭和時代にも増して、生き型を自分の責任で確立しなくてはいけない時代です。それが首尾良くいったひとはいいのですが、皆がみんなそう上手くいくとは限りません。そんな風にいまの時代を考えると、下のパートは、筆順の定められていたはずの「笑」の字(=生き型)が時代に圧し潰されて「窪」んでしまい、筆順=生き型が無効となった状況が想われます。尤も、生きづらさは各人各様なのですから、各人各様の読み方があるとしなくてはいけないでしょう。

さて、上記のように読んだばあい、掲出句は社会性川柳といって差し支えない内実を備えています。最後にこの句の美点をいうと、自暴自棄や社会への怨念、そしてその裏返しとしての自己承認欲求や自己特権化に傾きかねない「生きづらさ」を、きちんとレトリックで処理しているところにある。そんな風に考えます。


雪原でチーズが融ける安楽死   細川静

自然死、安楽死、尊厳死、人工死、病院死、自裁死。今年は有名人の訃報が多く、死について考えた方も多いと思います。さて掲出句は、問「安楽死とは?」答「雪原でチーズが融けるごとし」という構造。川柳的な問答体としてとてもすっきりしています。安楽死にたいする一読明快の思想詠といえるでしょう。先ほどの議論とも重なりますが、一読明快の句というのは読み手の想像力を必要としないものも少なくないのです。広がりがない句には、「そうですか。ご報告ありがとうございました」という他ない。だから一読明快を礼賛する声とは裏腹に、平明な表現で佳句を作るのはとても難しい作業だと思うんですね。でもこの句は、句意こそ一読明快ではありますが、「雪原でチーズが融ける」という見立てと、「とける」でも「溶ける」でもなく「融ける」としたことによって、安楽死にたいする作者の考えを読者が想像する余地が生じるわけです。つまり、読者の共同作業をうながす仕組みになっている。一読明快を考える上で参照していきたい作品であります。

(つづく)
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2018年10月15日

きょうの図解鑑賞45ー大事なエアポケットをさがせー/柳本々々

花火と花火の合間に話し合えたこと  熊谷冬鼓
    (『句集 雨の日は』)

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きょうの図解鑑賞44ー奇妙な肯定ー/柳本々々

いいんだよ十二時ばかり知らせても  我妻俊樹
   (句集 眩しすぎる星を減らしてくれ)

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きょうの図解鑑賞43ー「つ」の私性ー/柳本々々

わたし、ずっとずっとの「つ」です よろしくね!  守田啓子 

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