2015年03月14日

勇気のための川柳処方箋39 呼ぶ。

穂村弘が落ちたぞおーいでてこーい  松木秀

   *

M 『おかじょうき』から松木秀さんの句です。ふしぎな句ですよね。

Y わたしもよく人生のいろんな穴に落ちてしまって出られないことがあるんですが(今も実は穴からしゃべっているんですが)、今回落ちたのは穂村弘さんなんですよね。

M ええそうですね。「穂村弘」という名前の使い方に注目したいとおもいます。「ほむほむ」でもなく、「穂村さん」でもなく、「穂村弘」です。たとえば、誰か落ちたらあなたならなんていいますか?

Y そうだなあ。「ひとが落ちました!」とか、「誰か落ちました!」とか、ともかく〈落ちた〉ことに注目させるかもしれません。だって、誰が落ちたっておおごとはおおごとでしょ?

M あら、いつになく冴えてますねえ。

Y わたしがこの穴に落ちたときに、「誰か落ちたぞ!」っていわれたんですよ。それでわかったんです。

M なんだよ、実体験かよ。

Y ……。

M あ、失礼。そうなんですよね。ひとが落ちたら、落ちたことをまず伝えるべきで、固有名はノイズにしかなりません。ひとはひとを固有名で助けたり助けなかったりするわけじゃないので。

Y するとこれは「穂村弘」が落ちなければダメだったんですね?

M そうですね。語り手にとっては「穂村弘」でなければならない。「穂村弘」が落ちたことが語り手にとっては一大事だった。

Y でもそのあとに「おーいでてこーい」と語っていますが、助ける気はないのでしょうか。ひっぱりだしてやるー、とかではないんですよね。おーいだいじょぶかー、とか。

M これもふしぎですよね。落ちた穴は自力であがれる穴らしいんですよ。或いはこの感じだと「穂村弘」が自ら穴に落ちていってしまった。「穂村弘」の意志だったので、「おーいでてこーい」と語り手は呼びかけてくる。そんな気もしてきますよね。

Y なるほど。だから固有名が大事なんだ。「穂村弘」が主体的に落ちていったなら、〈だれか〉じゃだめですもんね。すると、ちょっとおどろくことなんですが、もしかしてこれって、「穂村弘」が主体的に落ちていくのを目撃した語り手の句ということになるんですか。

M わたしはそうおもうんですよね。

Y なるほどなあ。じゃあこれってただ呼びかけてるだけのようにみえても実際はよく読んでみるといろんな細かい状況がわかってくるようにできてるんですね。なんだかそれ聞いてたら勇気がでてきた。わたしも、そろそろ、穴から出て行くときがきたようだ。

(Y、穴から這い出てきて、ドラム缶のなかに入る)

M 少しだけ前進しましたね。おなじような穴ぐらだけど。

Y ド、ドラム缶、大好きなんだ……。

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posted by 柳本々々 at 10:59| Comment(2) | 柳本々々・一句鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする