2015年06月01日

勇気のための川柳処方箋95 鳥

unnamed (46).jpg


視線の元は──。
鳥だ。
鳥だ。
鳥だ。
巨大な空間に、鳥が。
鳥が鳥が。鳥が。壁全面に穿たれた龕や、棚や。
到る処に鳥が居た。雑多な種の鳥が。鳥が鳥が。
私の目は鳥に釘付けになってしまった。
どの鳥が。
どの鳥が私を視ているのだ──。
  京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』



(鳥なの、母様(おっかさん)。)とさういつて其時私が聴いた。
此にも母様は少し口籠つておいでであつたが、
(鳥ぢやあないよ、翼(はね)の生えた美しい姉さんだよ。)
(鳥屋の前にでもいつて見て来るが可い。)
そんならわけはない。
   泉鏡花「化鳥」



近所の木立からまるでねじでも巻くようなギイイイッという規則的な鳥の声が聞こえた。 我々はその鳥を「ねじまき鳥」と呼んでいた。クミコがそう名づけたのだ。本当の名前は知らない。 どんな姿をしているのかも知らない。でもいずれにせよねじまき鳥は毎日その近所の木立にやってきて、 我々の属する静かな世界のねじを巻いた。
        村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』  



ある朝、私がなにか気懸かりな夢から目をさましても、自分が寝床の中で一羽の鳥になつてゐないのに気がついた。これは一体どうしたことだ、と私は思つた。「やつぱりまた事務所へ出勤するしかないのか」
      寺山修司「テーブルの上の荒野」



ヒッチコックが育った保守的なカトリック文化では、性的に独立した女性は罰せられた。『鳥』においては、そうした女性が文明にとって危険な存在として描かれている。「自立した女性」を罰し、彼女たちを伝統的、受動的、従属的な女性に。
      マイケル・ライアン『映画分析入門』



M 今月の川柳スープクレックス・ゲスト作品は畑美樹さんの「鯉一尾」です。これからお話もするんですが、タイトルになまなましさやなまぬるさが出てもいます。

Y わたしよく川柳における〈鳥〉の句が気になっているんですが、

なまぬるいお椀が伏せてある鳥屋  畑美樹

この「なまぬるい」がこわいですよね。「鳥屋」ってね、鳥がたぶんたくさん生きたまま売っているところかもしれないし、もしくは焼き鳥屋みたいに鳥専門店かもしれないけれど、どっちにしても鳥の過剰ってなんかこわいんですよね、わたしには。かんがえてみると、鳥そのものがこわいんじゃないかという気もする。

M あ、そうか、ヒッチコックに『鳥』ってありましたよね。あれは『鳥』の過剰性の話ですよね。京極夏彦の『陰摩羅鬼の瑕』なんていう鳥過剰のミステリーもありました(京極堂シリーズは〈姑獲鳥(うぶめ)〉という鳥から始まる!)。あと泉鏡花の「化鳥」やギイイイイイイっと世界のねじを巻いている村上春樹の〈ねじまき鳥〉もいますね。

Y 鳥ってね、わりと境界不分明なところがあるんじゃないですかね。オウムとかしゃべりますよね。しゃべるってのが人間側にきてるんだけど、ただ犬や猫のようなぬいぐるみ的愛玩さがないといえばないですよね。わたしたちには羽根ってないものじゃないですか。毛並みとかはあるんだけれど。犬とか猫ってどっちかっていうと身体としてはわたしたちなんですよね。わたしたちだって四つん這いになることあるんだし。ただわたしたちは羽ばたかないでしょ。ところが言葉としては鳥と共有できる部分がある。

M そう考えると鳥ってちょっとこわいですね。

Y それが「なまぬるい」不分明さとしてあらわれている気がするんですよね。しかも「お椀が伏せてある」のでわりと〈オカルト〉的でもありますよね。仕組みはわからないっていう。「鳥屋」なんだけれど、内実がよくわからないオカルト的な。

M たぶん、鳥って〈集団性〉と、あと飼育されて鳥小屋にいるときの〈単独性〉をどちらもかねそなえているからそれもこわいとおもうんですよね。

Y じゃあさいごにちょっとふしぎな、ちょっとこわい鳥短詩ミニアンソロジーでお別れしましょう。

液状の鳥がプールに満たされていて夜ごとに一羽ずつ減る  笹井宏之

空室にたったひとつの窓があり鳥やひかりや夜が行き交う  小林朗人

鳥のこころ告げてしまえよ教会の鐘が鳴り続けてるあいだに  穂村弘

麦揺れて風はからだをもたざれど鳥類であることをみとめる  山田航

ぞろぞろと鳥けだものをひきつれて秋晴の街にあそび行きたし  前川佐美雄

鳥にも霧にもかはることなく身体といふ不可思議な器のなかに  荻原裕幸

動かしがたい思ひがどういつたらいい鳥の巣といへばちかいが  平井弘

後ずさりできぬ鳥たち 二人称をずたずたにする夕焼けだった   大森静佳

鳥の素顔を見てはいけない   小池正博

鳥の首握ったままで読むニーチェ  Sin

鳩の影私の影と鳥居をくぐる   なかはられいこ

手は鳥の夢見てお釣り間違える  倉本朝世

どうしてもわたしの姓にならぬ鳥   樋口由紀子

鳥でしたずっと眠っておりました  北山まみどり

心配しないで鳥には鳥の影  ひとり静

鳥の巣を囲んで人の消えにけり  鴇田智哉

鳥飛ぶ仕組み水引草の上向きに  宮本佳世乃

鳥だったことで決着ついている  籠島恵子

それからの鳥のはなしは鳥に聞く  澤野優美子

鳥になりたくて花になりたくて   櫟田礼文

おだやかなかつらをかぶり鳥を抱く  柳本々々


DSC_1560.jpg

posted by 柳本々々 at 07:31| Comment(0) | 柳本々々・一句鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

鯉一尾    畑 美樹


まっしろな放物線を描ききる

あけがたの牛の背中をふところに

あて先にひとふで書きの鯉一尾

なまぬるいお椀が伏せてある鳥屋

夕暮れの先に猿山できあがる

ないているあたためている土踏まず

はつなつやあとがきにスメタナとだけ

バス動く縞のかたちを思い出す



【ゲスト・畑 美樹・プロフィール】
信州在住。川柳カード同人。川柳リーフ会員。三十代のはじまりとともに出会った川柳。何故だろう川柳、とまだまだ思う。


縦書き画像をご覧になるばあいは以下をクリックして進んでいってください
鯉一尾.gif
posted by 飯島章友 at 00:00| Comment(0) | 今月の作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする