2015年07月06日

父は存在しない:200字川柳小説  川合大祐

「そば清を知っているか」と列車の振動から猪口を押さえつつ、父親は言った。もうどれだけ食べたのだろう。カレー、餃子、カツの皿が、カウンターに積まれている。大嫌いだった。「あれで消えたのは」とまた言った。「そば清じゃない、世界なんだ」。気分が悪くて、食堂車を出た。さよならを告げていなかったと気づき、引き返した。父親はいなかった。ああ、消えたのは僕なのだとわかった。食堂車自体が、存在しなかったのだから。

  八月の食堂車から父消える  樋口由紀子(『容顔』より)


posted by 川合大祐 at 07:48| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする