2016年12月12日

【生き抜く川柳 ⌘ 川合大祐『スロー・リバー』を読む 3】 

第1回 砂金をさがして

小津夜景


さいきん川合大祐『スロー・リバー』を読み直している。あとがきで少しだけ触れられているが、この本の選句は柳本々々が中心となって行われた。で、わたしはその作業の手順を少しだけ聞いているせいか、読めば読むほど《柳本セレクトショップ》の色彩が強烈だ、と思う。

柳本さんの選句には明確な批評と攻めの姿勢とがある。さもなくば、こんな選句はなかなかできない。仮にじぶんが選句を依頼されたとしたら、たとえば

白鳥を解き放つため汁でいる  川合大祐
巨大像ナゾナゾのまま祈り出す
画ではなく体のほうのピカソ裂く  
肉片のバーバパパなり花筏


あたりはきっと句集に入れたと思う。あと時と場合によっては

最強がとなり町へと逃げて来る   
麺類と人類が遭う歴史秘話


なども入れてしまったかもしれない。また実は私小説風川柳を多く詠んできたらしい川合さんには、

飛べない日くらいは翼出しておく  
愛されてしまったあとの傷薬


といった雰囲気の句も少なくない。

けれども、もしも今挙げたような安定感のある句、すなわち言い方をかえれば意味構成が無難で、世間とのかみ合いが良く、読者が何か言うのに便利な句ばかりが目につくような体裁だったら、『スロー・リバー』はここまで"もの珍しい"句集にはならなかったにちがいない。柳本さんは、川合さんという人間の表皮ではなく、その割れ目やすきまに挟まっている砂金をごっそりさらったのだ。ふつうの人は澱や塵とみなしてしまいがちな、かけがえのない輝きを求めて。

(次回につづく)

posted by 飯島章友 at 20:00| Comment(0) | 川合大祐『スロー・リバー』を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

本日より

小津夜景さんによる川合大祐著『スロー・リバー』の鑑賞を毎日掲載してまいります。
続き物です。
どうぞお楽しみに。
posted by 飯島章友 at 19:51| Comment(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする