2017年02月05日

3ぽ ぽ概論 安福望×柳本々々−田島健一『ただならぬぽ』から−

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柳本 短詩のことを考えていると、人生でぽにむきあわねばならなくなるときってあるじゃないですか。なんだかちょっとおもしろいなとおもって。短詩、短歌とか俳句とか川柳ってなんなんだろうと思って。ぽをひとに真剣に考えさせるって。

安福 そうですね。荻原裕幸さんのぽのことをかんがえてたんですよ。

  恋人と棲むよろこびもかなしみもぽぽぽぽぽぽとしか思はれず   荻原裕幸

あれ、なんかインフルエンザみたいな、悪いぽに感染しちゃったのかあっておもったんですよね。ぽに侵略されたというか。ぽにのっとられて、ぽしか考えられなくなったのかなっておもったんですよね。

柳本 いろんなぽをみてきておもうのは、ぽにはじつはこまかさがあるってことなんじゃないかと思うんですよ。

安福 えっぽにこまかさが

柳本 そう。

 ぽ「なんでもいっしょくたにすんな!」
 
って微分化されたぽたちが言ってるような気がして。
短歌とか俳句を読んでるといろんなぽをめぐる短歌・俳句があるでしょう。けっきょくそこに気づくというか。そうしたときにはじめて、

 ぽ「ありがとう」

ってぽがいってくれるんじゃないかとおもって。いろんなぽがあるなあってしみじみとあらためて思ったんですけどね。ぽって抑圧されるものなのかもしれないですね。ぽって記憶できないんじゃないのかなとおもって。

安福 あっそうかもしれないですね。あの、昔、やぎもとさんが書いた文章なんですけど、

  最近〈ぽぽぽぽ〉だけで話す訓練をしており、「火を起こす」まではなんとかぽぽぽぽだけで伝えられるようになった。ただ、「愛している」が、まだいえない。微妙なぽぽぽぽのニュアンスが要るようだ。

柳本 ああ。だから、わすれちゃってんですよね。荻原さんのぽの話にもどるんですけどね。ぽ、って言語化不可能ななにかですよね。ふつう言語化不可能なときって、まじめなほうにいくとおもうんですよ。言葉にならない事件とか。

安福 ああ。

柳本 だけど、なんていうか、ふざけというわけでもないんだけど、なにか得体の知れない陽気さのほうにいくっていうのがおもしろいとおもうんですよね、ぽぽぽぽぽぽって。

安福 たしかに言葉にならないってまじめなほうにいくのかもしれない。

柳本 なんか、言葉にならないことがうれしいっていうか。言葉いらんよ、って。

安福 あっ、ぽってなんかうれしそうなかんじですね。

柳本 でも、いらんよといいながら、ぽを必要としたんですけどね。それが、恋人とか愛のふりきれなさなのかなあ。なんかそれでも、ことばでいいたくなっちゃったんですよね。それでぽでいったのかなあ。荻原さんの川柳連作のタイトルで「るるるると逝く」ってのがあるんですけど、やっぱ「逝く」なのに楽しそうなんですよね。ぽとかるとか、ことばをふりきりそうにしながらも、またことばにけっきょくもどっていくんですよ。それって、言葉のかなしみ、じゃないかとおもうんですよね。

安福 へーそうなのかあ。

柳本 なんかお別れしたはずなのに、けっきょく部屋にかえってきちゃった、っていう。ぽ、ってそういうかんじなんですかね。

安福 ああ、なんかわかります。さよならってわかれて家かえったら、またいるっていうかんじ。

柳本 あの、さいきん、尾崎放哉さんの捨てるはなしをフシギな短詩に書いたんですけどそれにもちかいんじゃないかと思う。いちどすてたらもうすてられないって。ぽってことばの意味、をすてたんだけど、すてちゃったのに、ぽが残って、あっ、もう、すてらんないよ、って。

安福 なるほどなあ。

柳本 あの、ぽぽぽぽってたのしいけどかなしいんですよね。

安福 なにもいってないのがかなしいんですかね。咳みたいなかんじで。

柳本 ひとって結局どこにもいけないんだ、ってことなのかなあ。ぽ、にせっかくいけたけれど、けっきょくは、ぽにかえってきてしまっていることもわかる。尾崎さんもそうだとおもうけど、すててどっかいこうとしてもまたかえってきてしまう。

 ぽ「ここにいろ」

安福 ぽがひきとめるんですね。

柳本 そうですね。

 ぽ「酷使するのはやめろ」

安福 ぽってなんか鏡みたいですね。

柳本 ちょっとぽの響きのことについて話してみたいんですけど、ポエムっていうばかにされてる言葉ありますよね。ポエム(笑)、みたいなかんじで。でも、ポエムってことばってもともとは意味深長なんですよ。なんかちゃんとした意味がある。だけど、ばかにされてるのはポのひびきがわるいんじゃないかとおもって。

安福 ああ、ぽがふざけてるようにおもうんですかね。

柳本 ぽって、なんかこう、チャンネルがきょくたんにかわるんですよね。ぽ、っていわれたしゅんかん。

安福 ぽいっとすてるとか。すてるも、ぽ、ってかんじですよね。

柳本 中沢新一さんのことばなんですけど、ちょっと長いですけど、

  「ポエム」という言葉の原形になった、古代ギリシャ語の「ポイエーシス」は、もともと「何かが、立ちーあらわれてー来る」という意味を持っていた。それまでは隠されていた何ものかが、自然のうながしや人の技によって、存在の世界の中に立ちあらわれてくる。冬枯れの植物の中に、隠されてあったものが、春の訪れとともに、みずみずしい芽吹きや花の花開きとなって、自分をあらわにしめす時が来る。自然はそのようなポイエーシスを本質としている。そして、人の作る詩歌の本質もまたポイエーシスなのである。隠されてあったものを、あらわに立ちあらわれさせるための言葉の技、それがポエムであるからだ。だから、世界中いたるところで、詩の発生の現場には、いつも恋の現象が、いっしょに立ち会ってきたのである。恋は人の心の見えない奥で生まれる。はじめそれは隠されていたもので、その恋心が表にあらわになるとき、人々の心には驚きや興奮が生まれる。恋はポイエーシスの現象そのものなのである。そのために、詩と恋とは切っても切れない関係にある。
  (中沢新一『日本文学の大地』)


柳本 ポエムってなにかがたちあらわれてくる現場だとおもうんですよ。もともとの原義は。でも、いまは、あまったるいことばの羅列みたいになってますよね。で、響きだけで、かんがえてみると、あの荻原さんの歌って、ぽぽぽぽを、ポエムポエムポエムに変換するのもありなのかもとおもったりするんですよ。恋人といろんなものがたちあらわれてくる現場として。

安福 なるほど。

柳本 たとえばほんとはポエムポエムポエムポエムポエムだったのが、はやくちでいえなかったのかもしれないとか。いきいそいでいてね。エムなんてはっきりしたことばじゃないでしょ。だから耳としてきくと、ぽぼぽぽになる。

安福 ポエムポエム、かあ。

柳本 ポエムってはやくちでポエムポエムポエムポエムっていうとけっきょくぽぽぽぱぽになりますよね。今はやくちでいってみたんですけど。

安福 なるほど、エムがいいにくくてぽっていいやすいんですよね。

柳本 ポとエムが格差がありすぎるんですよね、発声のしかたの。どっちかになっちゃうから。さきにあらわれたポのほうになっちゃうんですよね。

安福 わかれる運命ですねポとエムは。

柳本 ただエムっていうといみがもうわからないですよね。たぶん海外のひとのポエムの発音ってほとんどポ一音なんじゃないですかね。

安福 ああ、ほんとですね。ぽにアクセントが。エムはつけたしってかんじ

柳本 「po・em /póʊəm」だから。

安福 「ぽはpo」

柳本 ここで発音がきけますね。

安福 poより日本語のぽのほうがいいですね、なんかぽってかんじする。ぽがこの「ぽ」って形がいちばんしっくりきてるかんじ。poだとpとoにわかれるからかなあ。

柳本 それはほがぽとぜんぜんちがうからじゃないですかね。ほになんか付着してぽになるっていう事態が、なんな。

安福 あ、ほんとだな。ぜんぜんちがいますね。

柳本 ぽって変形物なんですよね。ほが変態したもの。なんかそれが同棲的なのかな。ぽをしっちゃうとほにもどれませんよね。ほにもどるとき、うしなうことになる。○を。

安福 pとoがpoになっていつのまにかぽになるの同棲的っておもいました。pとoだったのに、ぽになっちゃうのかなあ、同棲すると。そんでぽになっちゃうと、わかれるときpとoにはもどれなくて。

柳本 英語だとわかれられるんですけど、日本語だと○をうしなうことになりますよね。ということは、日本語だとほと○が一体化しちゃうってことですよね。英語とちがって。埋め込まれちゃう、○が。

安福 ぽはほになるとき〇をうしなうしかないってことですかね。

柳本 傷がついたり、へこんだりするんでしょうね。うしなうと。

安福 そうですね。もうもとの自分にはもどれないんですよね。

柳本 ○はでもまたどこかでぴとかぷになるかのうせいがある。あっそうだ、トレンディエンジェルの斉藤さんもヒントになるかもしれませんね。なにかしらの。ぺぺぺぺぺぺって。くまのプーさんなんかもそうかもしれない。そういう圏内。ムーミンパパとか。

安福 あっほんとですね。いっぱいいますね。

柳本 ペンギンプルペイルパイルズとか。

安福 あとピコ太郎さんね。

柳本 あんまり名前にじつは破裂音ってないんですよね。柳本ぽ、とかになんないじゃないですか。江戸川乱歩くらいじゃないかな。乱歩かペリーくらいじゃないでしょうか、日本でぽとかぺだったひとは。大塩ぺの乱とかなんないから。あっ、でも、いなかっぺいさんがいるか。あっ、でも、林家三平がいた。だから、いなかっぺいさんと林家三平のふたりがいなくなると、日本からぺの一族が途絶えるんじゃないかなあ。あっでも、林家ペーパー夫妻がいるか。

安福 あっほんとだ。ともだちが、衛星ペポってなまえで絵とか立体をつくってたことありますよ。

柳本 あとPontaカードがありますね。まあだいたいそのひとたちがせおってるってことですかね、歴史的には。

安福 ぽをせおってるんですね。

柳本 ポーの一族ってことですね。

安福 はい。


posted by 柳本々々 at 20:51| 川柳サロン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

(マックイーンの絶対の)危機:200字川柳小説  川合大祐

状況は急迫している。「本日は閉店しました」の貼り紙を留めておく五寸釘が全部引き抜かれて、閉店することができない。それなのに客はひとりもやって来ない。明日は局地的に核戦争が始まるかもしれないのに、運が悪い。隣が金物屋なので、五寸釘を買って来ようかと思うが、その隙に客が来ないとも限らない。何もかも限らない世界の、限られた終末がやって来ようとしている。状況は急迫している。だから、叫べ、「たすけて〜」と。

  「たすけて〜」と干ぴょうは叫べない  岩田多佳子(ゲスト作品「くぐもる」より)

posted by 川合大祐 at 00:00| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする