2017年03月06日

口の快楽から考える古畑任三郎 安福望×柳本々々−ファーストシーズン第4話「殺しのファックス」(犯罪者:幡随院大【小説家】=笑福亭鶴瓶)

安福 殺人ってかなり重大なことじゃないですか。でも殺人をしてしまったひとは、それをこえた重大な、だいじなことがあったんですよね。人をころすよりも。執着してしまうことが。第2話の堺正章なんかは殺人より舞台がずっとだいじだったんだなあとおもった。だいじなものの順序ってひとによって違うし、瞬間瞬間でかわるんだなあって。

柳本 ほんとそうですね。だいじなものをめぐる物語かもしれませんね、古畑任三郎って。

安福 なんかかっとなって殺すときもその瞬間は人を殺してしまうよりだいじになったものがあるんでしょうね。古畑は、それがわかんなくて、犯人にききまわってるかんじですね。

柳本 骨董商の春峯堂のご主人の回なんかまさにそうですよね。タイトルも「動機の鑑定」だったし。動機が鑑定される。動機は犯人にとっていつも逸品なんですよ。あとで偽物だったって気づく場合もあるけれど。
動機って本人自身にも実はわからなかったりする場合もありますからね。言葉もそうですよね。意識とか言葉ってシステムになってるから。
第四話は犯罪者が小説家の回だから言葉の回ですよね。脅迫文が鍵になる回ですけど、言葉の配列が小説家でしかありえないような配列ってのがヒントになるわけですよね。たとえば歌人が犯罪者だったらなぜか五音七音ばかりで脅迫文を送ってくるから、あれ、このひと歌人なんじゃないの、とか。
古畑任三郎って、言葉が言葉に言及していくドラマだっていうふうにもいえるとおもうんですよ。物理学とか合理性とかではなくて、いかにひとが無意識に言葉のシステムにささえられていて、そこからあしもとをすくわれることもあるかっていうドラマだとおもうんですよね。
小説家は言葉にあしもとをすくわれてしまう、言葉を大事にしていたから。冒頭に話した〈大事〉の話ですよね。
あとなんかこの回で今までなかったのが、誘拐事件なので蟹丸警部たちの警察組織がやってくるんですけど、それによって古畑と組織との関係が明示されるんですよね。それで古畑は徹底的に疎外されてますよね。
古畑って疎外されてるひとなんですよ。で、じつはこの古畑の立場にもうひとり似ているひとがいて、それって殺人者ですよね。
殺人をおかすと、疎外されるわけですよ、もうふつうのひとじゃないから、意識のうえで、やっぱりひとをころしたひとところしてないひとの境界線っておおきいから。それってドストエフスキーの『罪と罰』を読むとよくわかりますよね。あの小説のキーワードって〈踏み越える〉なんですけど、主人公のラスコーリニコフはじぶんが偉いからひとなんて殺したってどうってことないって思うんだけど、ところが殺したあとにどんどん自分自身の意識から追いつめられていくんですよ。それはやっぱり自分が殺しちゃった人間になった、〈踏み越えてしまった〉っていう意識だとおもう。そういえばそのラスコーリニコフを古畑みたいにねちねち追いつめるのがポルフィーリーって予審判事なんだけど、刑事コロンボは彼をモデルにしてつくられてるんですよ。だから古畑の原型は、ポルフィーリーです。
で、話がそれちゃったけど、〈踏み越えたひと〉として犯罪者たちって孤独だとおもうんですよ。でもそれは古畑もおなじで孤独なんですよね、組織から疎外されて排除されてるから。

安福 あ、そうかあ、疎外されてる者同士なんですね。そうですね、殺人ってかなり線ひかれますもんね。

柳本 なんかそういう、孤独のひとどうしが犯罪をとおしてわかりあうやさしい風景が描かれているんじゃないかっておもうんですよ、「古畑任三郎」って。
だけどしんだひとも孤独ですよね。だから孤独の三角関係かな。ちょっと高橋留美子のマンガ『めぞん一刻』や夏目漱石の『こころ』みたいな三角形ですけどね。死者と生者がおりなす三角関係。

安福 あ、ほんとだ! 死体と犯人と古畑の三角関係ですね。

柳本 古畑にとって犯罪者たちとの出会いって、いちどきりなんですよね。であったらわかれなきゃいけないっていう。つかまえないといけないから。ちゃんとであえると、ちゃんとわかれることになる。

安福 ほんとですね。いちどきりですね。

柳本 であえるってことはそのひとがころしたんだってきづくことだから。もっともわかちあえたしゅんかんが別れになる。

安福 なるほど。会話の最終目的地は逮捕ですもんね。

柳本 だから別れにむかって、ふたりでくみたてていく。

安福 ほんとですね。

柳本 あ、そうだ。タイトルの「殺しのファックス」って、まさに言葉が凶器になるってことてすよね。

安福 あ、ほんとですね。

柳本 それは犯罪者自身にもむけられるってことだとおもう。

安福 言葉といえば、今回の犯罪者の幡随院が小説のタイトルは辞書でひらいたとこの単語つなげただけで意味ないって言ってたのが印象的だったんですよね。

柳本 ああ。だからある意味でことばをないがしろにしてんですよね。それで意外なことばの復讐にあうっていうか、ことばに返り討ちにされる。
 
安福 そういえば古畑さんが読んでる幡随院の小説の主人公の名前まちがってましたよね。鮫島(さめじま)刑事だと思って読んでるんだけど、実は鯨鳥(くじらとり)刑事なんですよね。

柳本 あれも、言葉が無意識に支配されてることのあらわれですよね。ひとって意外に言葉のシステムに支配されてる。

安福 あと、古畑さん、今回本読んで、出番が来るのずっと待ってるのがおもしろいですよね。出番待ってる姿が、普通に映ってる感じ。

柳本 ああ、そういうときはわりとむすっとしてるじゃないですか、余計なおしゃべりはしないというか。コロンボもそうなんですけど、犯罪者と会うと言葉のモードというかチャンネルを切り替えてるでしょ。それがよくわかりますよね。それってね、鮫島(さめじま)と鯨鳥(くじらとり)みたいに言葉には位相とかチャンネルがあるってことだとおもう。言葉のチャンネルをきりかえられる。古畑もコロンボも。だから犯人には饒舌にまくしたてて、組織とか蟹丸さんの前ではむすっとしてる。今泉の前でもそうですね。まあちょっとこどもみたいな態度をとる。言葉をそのつど調理していくっていう感じなのかな。

安福 この回で辛子明太子スパゲティ食べてますけどそれも印象的でした。

柳本 古畑任三郎では食っていうのも大事なテーマですよね。食へのこだわり。

安福 ほんとですね。

柳本 明石家さんまの回でもハンバーガーはピクルスをまんべんなくってコンビニ店員に怒ってましたよね。木の実ナナの回でも魚肉ソーセージは最高っていってたし。

安福 食のこだわりありますね。毎回なんかたべてますし。卵スープ、お茶漬け、ミートローフ茶碗蒸し焼きナス、パフェ、スパゲティ、あんかけ豚カツ。

柳本 口への注意だとおもうんですよ。

安福 えっ。

柳本 口唇欲動というか。それって、ことばと口への注意になってるとおもうんですよ。ことばと口のこだわりというか。

安福 ああ。

柳本 だから古畑って口唇期から肛門期への物語なんじゃないですかね。

安福 えっ。

柳本 肛門期ってすっきりすることでしょ、事件解決の。

安福 ああ、まえそういうこと柳本さん書いてましたね、フシギな短詩で。

柳本 いや、肛門の話はしたことないですよ。

安福 あれ、そうでしたっけ。

柳本 肛門の話はしたことないですね。肛門期っていったことないですよ。

安福 あらら。これ、東京タワーのまえにたつつるべ、なんかこわいですね。

柳本 この立ってるとこ、大学に近かったから、よく歩いてたんですよ、しにそうなかおで、いみもなく。

安福 えっそうなんだ。

柳本 大学にいて疲れると意味もなく歩いていつも東京タワーにいってたんですよ、投げやりな顔をして。

安福 えーいいですね。意味もなく東京タワー。

柳本 で、蝋人形館の前まで行って。泣きそうな顔で。そういえば蝋人形館って一度入ってみたいんですよね。入ったことがない。

安福 えっ、そのとき入ったんじゃないですか?

柳本 いや、目の前から入りたそうにみてただけですね。いれてくれないかとおもって。

安福 いれてくれないですよ笑
今回の古畑、なんかずーっと食べてますよね。

柳本 うーん、だから口唇欲動から肛門欲動への移行の物語なのかなあっておもうんですよね。ことばって肛門期がひつようなのかもしれないなと思うんです。オチとかってそうですよね。結句とか下の句もそうじゃないかな。
あと「古畑任三郎」っていっつも終わりへの気遣いがありますよね。今までもみてきましたけど。

安福 あ、そうですね。

柳本 それに逮捕されるって、よくあなたには黙秘権がっていうけど、口唇欲も肛門欲もふうじられることだとおもって。
口の快感と肛門の快感が古畑任三郎にはあるきがするんですよね。封じられてしまうまえの一歩手前が。

安福 でもそうですね。古畑任三郎って毎回オープニングとして、最初に、古畑しゃべるしね。スポットライトあてられながらひとり語りを。

柳本 ああそうだ。そうそう、だからこれね、このシリーズ全編にわたるオープニングのことを考えてみると、『古畑任三郎』って巨大な古畑任三郎の回想ともいえると思うんですよ。あのときの事件はー、って。

安福 ああ、そうですね。

柳本 おもいだしてるわけですよ。

安福 ああ。

柳本 このオープニングは古畑の脳内でね。だからこれ、古畑任三郎の死に際なんじゃないかとおもって。

安福 ああ、死に際の走馬灯なのか。

柳本 そうそう、あのスポットライトってちょっと宗教的じゃないですか。

安福 ああ、ほんとですね。

柳本 召される感じ。あのーえーっていいながら、召されてゆくかんじね。あのーえー召されますー、ってね。

安福 ……。

柳本 あとね、神がみてるばあいがあるとおもうんですよ。あのオープニングのしゃべりってとちゅうでとつぜんとぎれますよね。あれずっとフシギだとおもってたんですけどね。

安福 とぎれますね。

柳本 あれ、神がシャットダウンしてんじゃないかとおもって。

安福 ああ。

柳本 古畑の意志ではどうにもならないことがあるってことなんじゃないかとおもって。宇宙。

安福 宇宙?


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安福望:古畑任三郎「殺しのファックス」の回の絵

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柳本々々:古畑任三郎「殺しのファックス」の回の絵


posted by 柳本々々 at 21:23| 川柳サロン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする