2017年07月09日

何かを思い出す:200字川柳小説  川合大祐

トラウマなど存在しない、と言うのが少し昔に流行った言葉らしいが、しかし道にカツ丼が落ちていた。日々の繰り返しの中で緑に錆びてゆき、凡々とした光景に沈むがゆえに、かえって光り輝く通勤路の上に、カツ丼が落ちていた。それも丼の蓋が「もっと開けてくれ」と言わんばかりに微妙な擦れ具合を見せており、そこから青い物体の片鱗と青い臭いが漏れてくるのだった。もう食べるしかないが、箸が無いのだった。胃は空の儘でいる。

  胃カメラのぬるりと覗く過去の街  山河舞句(「川柳杜人」2017夏より)

posted by 川合大祐 at 00:00| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする