2021年08月16日

湊圭伍著・現代川柳句集『そら耳のつづきを』を読む


現代川柳句集『そら耳のつづきを』
著 者:湊圭伍
発 行:2021年5月26日
発行所:書肆侃侃房

靴音から遙かに閉じゆくみずうみ

そら耳のつづきを散っていくガラス

手のひらの穴から万国旗をのぞき

きみの死をぜんぶ説明してあげる

くちびるを捲って遠い火事をみせ

帝王を折檻にゆくはらたいら

拍手した手がふっくらと焼き上がる

火葬場の火からウナギの話題へと

寝返りを打つと渚がちかくなる

意味なんてあればあったで寝てしまう


湊圭伍さんの第一句集『そら耳のつづきを』が出ました。わたしと湊さんは、2009年から柳誌「バックストローク」に投句を開始しました。その後「川柳カード」を経て、現在も「川柳スパイラル」で一緒なのですから、言ってみれば「同じ釜の飯を食ってきた」間柄です。

とは言え、当時の湊さんは俳句や現代詩を通過してきたからかも知れませんが、五七五(前後)の長さで表現する力量がわたしよりもありました。ずっと短歌をやってきたわたしではありますが、川柳は下の句のない短歌みたいなもの。その短さには正直、困惑するばかりだったのです。東京2020オリンピックのあとだからでもないのですが、当時のわたしをレスリングになぞらえるなら、上半身も下半身も自由に攻撃してよいフリースタイル・レスリングだけやってきた人が、下半身を攻撃してはいけないグレコローマン・レスリングを始めたようなものなのです。

五七五に四苦八苦していた当時のわたし。他方、湊さんは、2010年3月7日の週刊俳句【川柳「バックストローク」まるごとプロデュース】(バックストローク30号)、2011年4月9日の「第4回BSおかやま川柳大会」での選者(バックストローク35号)、同年9月17日の「バックストロークin名古屋シンポジウム」でのパネラー(バックストローク36号)、短詩サイト「s/c」での「川柳誌『バックストローク』50句選&鑑賞」など、新人ながらその句作センスと批評力にみあった役目が与えられ、みごとその期待にこたえていたのでした。こうして文章で記すだけだと何とも簡単ですが、リアルタイムで見た者からするとまさに飛ぶ鳥を落とす勢い。現代川柳界に出現した新星でありました。

湊さんのご活躍は本人の力もさることながら、当時の川柳環境にも後押しされたのかも知れません。句集の「あとがき」を読んでそう思いました。彼が所属していた「バックストローク」や「川柳結社ふらすこてん」の主要メンバーは、石部明・石田柊馬・くんじろう・筒井祥文・樋口由紀子・小池正博・きゅういち・吉澤久良・兵頭全郎の各氏を見てもわかるように西日本の柳人たちでした。当時の湊さんは近畿在住。こうした気鋭の柳人たちとじかに交流し、刺激を受けることで、川柳の実践知をみるみる吸収していったのであろうことは想像に難くありません。

一方のわたしは東京者であり、バックストロークに似た作風のグループが関東になかった関係で、しばらくは一人で句作をする環境でした。でもやがて、当時こちらにいた江口ちかるさんと出会い、「かばん」に川合大祐さん・千春さん・柳本々々さんが入会してきたことで、徐々に環境が変化していきます。さらにこのブログを通じて全国の柳人の皆さんとの交流も増え、いまでは日々刺激を受けつづける毎日です。

いまこの文章は、昔話を楽しむような感覚で書いています。湊さんとわたしがバックストロークに投句を始めてから12年。その月日の流れを想うと、彼の第一句集が出たことは本当に感慨深い。

意味なんてあればあったで寝てしまう
この句、じつは暗唱できるくらい気に入っているのですが、以前読んだ川柳評論に書いてあった警句かな、くらいに思っていました。それが今回『そら耳のつづきを』を読んで、そっか湊さんの川柳だったんだ! と嬉しくなりました。〈中八がそんなに憎いかさあ殺せ〉(川合大祐)と同じくらい示唆に富んでいると思います。ホント、みんなにこの句を暗唱してもらいたいです。

火葬場の火からウナギの話題へと
このあたりは所謂「伝統川柳」的な興趣があります。でも、いまはこういう不謹慎さを含んだ伝統川柳を見る機会が少なくなりました。みんなもっと不謹慎になれ。

帝王を折檻にゆくはらたいら
こういう一見狂句風な川柳も湊さんは書きます。他にも〈おい思想だな〉というのもあり、こちらは一行詩のような風采ですね。川柳の可能性をを楽しんでいるな、とわたしも愉しくなりました。

くちびるを捲って遠い火事をみせ
最初は〈ほほゑみに肖てはるかなれ霜月の火事のなかなるピアノ一臺〉(塚本邦雄)を思い起こしたのだけど、すぐに塚本の短歌とは趣きが全然違うことに気づきました。むしろ〈雑踏のひとり振り向き滝を吐く〉(石部明)に近くて、川柳的な茶目っ気を感じます。

そら耳のつづきを散っていくガラス
「そら耳のつづき」→「散っていくガラス」の展開が抜群に上手い! ここでの「そら耳」は絶対動かしたくありません。そら耳という過誤につづいて舞い散るガラス。今の時代・今の人間ともシンクロしている気がします。ガラスが散ることでいうと、〈一斉に都庁のガラス砕け散れ、つまりその、あれだ、天使の羽根が舞ふイメージで〉(黒瀬珂瀾)が有名ですが、湊さんの掲句も忘れられない川柳になりそうです。
posted by 飯島章友 at 07:00| Comment(0) | 川柳句集を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする