2016年08月11日

「飯田良祐句集を読む集い」

過日、7月30日、
「飯田良祐句集を読む集い」(発起人 くんじろう・小池正博 / ゲスト岡野大嗣)へいってきた。
http://senryucard.net/archives/651

飯田良祐さんは伝説のひとだ。
はじめて読んだのは、高田銀次さんが作られた「飯田良祐集」。縮緬状の高級落とし紙?を麻紐で閉じた個性的な句集は、何かの拍子に溶けてしまいそうなあやうさもあり、取り扱いには緊張をともなう。
今回の集い第一部は、『実朝の首』(川柳カード叢書)を語る、である。
集いの案内には「飯田さんの句が孕んでいる、早退の帰路にガラ空きの電車から見る夕焼けのような痛み」という岡野さんのコメントがあった。アウトサイダー感に染みる美しさの痛み、というところなのだろうか。

青字は、レジュメより。
岡野さん選の句のほとんどが、わたしにはさほど印象の強くないもので、小池さん選のものは、ああ、これ!膝を打ちたくなるものだったこと。その違いが、まずおもしろかった。

【飯田良祐の10句】岡野大嗣選(数字は江口が振ったもの)
@下駄箱に死因AとBがある
Aバスルームに玄孫もいつか水死体
Bポイントを貯めて桜の枝を折る
C母の字は斜体 草餅干からびる
D吊り下げてみると大きな父である
E百葉箱 家族日誌は発火する
F当座預金に振り込めと深層水
G言い訳はしないで桶に浮く豆腐
H沸点ゼロで羽化 名前のない鳥
Iきっぱりとことわる白い白い雲

【飯田良祐の5句】小池正博選
パチンコは出ないしリルケ檻の中
ハハシネと打電 針おとすラフマニノフ
二又ソケットに父の永住権
自転車は白塗り 娼婦らの明け方
げそ天のひとり立ち滂沱の薄力粉

第一部『実朝の首』を語るは、岡野さん選の10句の読みを中心に進められた。
その岡野さんの読みがおもしろかった。
@下駄箱という空間Aバスルームという空間にフォーカスしている。
@下駄箱という空間のほこりっぽい匂いもしそうでおもしろい。ふだん目につかない死因がぺろりとそこにある。Aバスルームをあけると幻のひしゃごの死体がそこにある。死をおそれていても死はすぐそこにある。
Bポイントをためることはカルマを払う行為か。ポイントをためることで、桜をおるという悪しき行為をチャラにしているのではないか。C母が書く癖のある斜体の文字。見る人が書き手へ抱く感情によって、癖字はいやなものにもそうでないものにも変わる。草餅が干からびていることから母への感情が感じとれる。Dひょっとして、ふとん?E手掛かりとして調べてみると「家族日誌」はマストロヤンニの映画のタイトル。飯田良祐は映画をみていたのではないか。「家族日誌」という普通のことばに見える固有名詞をほうりこむのは短歌でもよくする手法。GIの句について、句集のなかにふっと弱いものやわらかいもの(豆腐・白い白い雲)に自身を投影しているような句があるところが魅力と言われた。
またH「沸点ゼロで羽化 名前のない鳥」では、あたためられずに羽化した自分か、と。
等々、岡野さんの、視界のきかない森を、言葉をたよりに歩むかのようなゆっくりとした読みは、非常に丹念なものだった。(言葉を信じて。必ず森は抜けられる)言葉がそこにあれば、真正面から意味を問う。たとえば「深層水」である。Fの深層水、岡野さんは擬人と言われた。対して小池さんが、言葉に意味やメタファーをみつけようとする読みよりも、現在の川柳では深層水に意味をおかずそのまま読むと言われた。実際、小池さんの言われる通りだと思う。わたしも深層水を記号みたいに読んで、その奥に入ることはしなかった。森で言うなら、視界がきかないなら、その状況を楽しんでいるような。森の香を嗅いでいるような、森の香からトリップして他の景色を見ようとするような、読み。
岡野さんの読みは、妙な表現だけれど、ひととしてただしい読みとでもいうんだろうか。普段の川柳の会での読みの場とは違う新鮮さがあった。そんなことを書くと、川柳の場の読みがひととしてただしくないみたいで叱られそうだけど。もちろんひととしてただしくない読みにもおもしろいことはたくさんあるけれど。
岡野さんの、ふだん接するものとは(アプローチも、かけられる時間も)違う読みはおもしろく、触発されてわたしなりの読みが引き出されていくのが楽しかった。

第二部は、くんじろうさんの司会で、飯田良祐さんの思い出や、また、作品について、参加者が発言した。
句については、石田柊馬さんが「時間」というキーワードを出された。
レジュメの句でいえば「貯めて」「干からびる」「日誌」「振り込め」「羽化」「ことわる」「パチンコは出ないし」「ひとり立ち」時間を含んでいる句が多い。時間という概念を常に意識していたという趣旨のお話が興味深かった。
また、兵頭全郎さんの作句のうえでの転機となったのが
「二等辺三角形の猫車」の句だったというのも印象的だった。

あてどない春を炒めるゆりかもめ 飯田良祐


posted by 飯島章友 at 01:49| Comment(0) | 川柳イベントレポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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