2017年02月07日

5ぽ ぽ色の研究 安福望×柳本々々

安福 もう一回、荻原さんのぽに戻りたいんですけど、

  恋人と棲むよろこびもかなしみもぽぽぽぽぽぽとしか思はれず  荻原裕幸

のぽぽぽぽぽぽって一緒に棲む恋人と私にしかわからないことになってるのかなあって柳本さんと御前田さんのぽの文章読んでやっとわかった、って感じなんです。
だからこのぽぽぽぽぽぽってなんなのかって考えてもわかんないんですよね。二人にしかわかんないことだなって。恋人と私だけのぽなのかなあって。だからぽぽぽぽぽぽのなかには、よろこびもかなしみもあと他にもいろいろ入っていて、でもそれは恋人と私以外にはぽぽぽぽぽぽとしか伝わらないことなのかなあって。他人にはぽぽぽぽぽぽというぽの音にしか聴こえないんだけど、恋人にはそれがなにか伝わってるんですよね。
御前田さんがいっていた、「ぽぽぽぽぽぽ・ぽぽ・ぽ(訳:愛している)」も恋人には訳がなくても伝わるんですよね。ぽはたった一人にだけ伝わればいいんだなあって思いました。みんなそれぞれ、自分のぽを持っていて、伝わるひとには伝わるんだなって。

  世界っていろんなものがあるからさ、きっと森の奥深くに忘れられたようなぽとか、深い海の底で深海魚がつついてるようなぽとかあるんだろうね

って柳本さんの「ぽ譚」でいってたけど、ほんとひとそれぞれみんな、ぽを持ってるんじゃないかと思った。ぽって定型みたいですね。なんでも入るかんじする。

柳本 昔、国会図書館で、荻原さんが書かれたものをとにかくずっとピックアップして読んでたときがあったんですよ(それは実は、加藤治郎さんや穂村弘さんのもずっとピックアップして読んでたんだけれど)。そのときに、2000年前後の『短歌』か『短歌研究』で荻原さんが「ぽ」の連作は万葉仮名から発想しているってたしか書かれてたんですよ。

安福 えっ。

柳本 ただ、作者の発言の答え合わせみたいのってあんまり好きじゃなくて、考えてなかったんです。でも今回、いい機会だったので考えてみたんです。
たしかに万葉仮名って特殊ですからね。

安福 わたしぜんぜんしらないですね、万葉仮名について。

柳本 万葉仮名って漢字の当て字みたいなものなんですよ。夜露死苦(よろしく)みたいにね。当時まだ今ある文字が開発されてなかったから、そうやって漢字を借りて文を書いてた。『万葉集』とかそれで書いたんです。だから『万葉集』ってほんとはどういう音なのかってわかんない部分もあるんですよね。
それでね、『万葉集』って奈良時代ですよね。で、この時代のひとってね、「はひふへほ」を「ぱぴぷぺぽ」って発音してたらしいんです。たとえばね、大塩平八郎(おおしおへいはちろう)って発音できなくて、おおしおぺいぱちろう、になる。ほーほっほっほっ、ってわらうときも、ぽーぽっぽっぽっ、ってなるんです。鼠先輩みたいだけど。

安福 えっそうなんですか!

柳本 かんたんにいうとですよ。でね、となるとね、奈良時代のひとはぽぽぽ言語だったことになりますよね。万葉仮名をつかってたころのひとびとは。
そうなるとね、荻原さんの同棲生活の歌ですけどね、このぽぽぽぽっていうのは、〈そういわざるをえない生活〉にふたりがいたってことなのかなあと思うんですよ。万葉人みたいにね。もうある音しか発せない状況。しかもそれは奈良時代の音のありかたのように、システムがそうさせてる。
個人の問題じゃなくて、システムの、ふたりの生活のもんだい。

安福 なるほどなあ。

柳本 万葉人がぽぽぽと発音してたように、ぽぽぽっていうのは、システムにしばられたことばなのかも、個人をこえた。

安福 ああ、そうかあ、システムにはいってしまって、よろこびもかなしみもぽぽぽぽぽぽになってしまったのかな。

柳本 でもそれは万葉仮名のようにあとでシステムがかわるものかもしれない。またシステムがつくりかえられてそのシステムはまるでなかったかのようにわすれさられるものかもしれない。だって今のわたしたちはもう万葉仮名なんて使えないですからね。

安福 あ、そうかあ。つねに変化してるんですね。ぽの短歌のこと考えてるとき、千早茜さんの「男ともだち」って小説思い出してて、その小説の主人公は同棲してるんですけど、話がすすむにつれて、どんどん同棲生活が膿んでいくんですよ。なんか生活が膿むというか腐っていくかんじをぽにちょっとだけかんじてたんですよ。生活が破たんしていくかんじ。でもそれは外からはわかんないんですよね。二人にしかわかんないことで。日本語の変化と一緒で、生活も変化してくんだなあっておもいました。

柳本 あ、そういえばそういうこと考えるときよく思い出す歌があるんですよ。

  わたくしの口癖があなたへとうつりそろそろ次へゆかねばならぬ  斉藤斎藤

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写真・雪男:安福望(句集は田島健一さん、モールサンタは購入品)


posted by 柳本々々 at 21:37| 柳誌レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする