2017年05月31日

川柳「カモミール」第1号 A


 暖冬の二月の足がはみ出てる  守田啓子

守田啓子さんは「おかじょうき川柳社」所属。

ひとつの読みとして、二月の暖冬が三月にまで食い込むという句意。また、ふたつめの読みとして、語り手が過ごしているこの二月が、暖かさの上で平均をはみ出しているという句意。
季節や気温と違った領域で成立している「足」を、季節・気温の領域に招くことで「暖冬の二月」の様子を表現している。川柳が得意とする書き方だ。以下の句もそう。
 少年法からはみ出した長い脚  荻原鹿声
守田さんの句も荻原さんの句も、「足」と「脚」の使い分けがそれぞれの句にとてもフィットしている。見逃せないポイントだ。


 旅人は百科事典から帰らない  横澤あや子

横澤あや子さんは元「バックストローク」の同人。

ギリシア神話に出てくるヘルメスという神様を想い出した。ヘルメスは盗み、商売、発明、交通、賭博、競技、牧畜……と、書くのが面倒になるくらいさまざまな分野の神様にされている。上掲句と関係があるとすれば、〈学問〉や「旅人」の神様とされていることか。ドイツ語のヘルメノイティーク(解釈学)も、元をたどればヘルメスに行き着くと聞いたことがある。
さまざまな事柄を解説する「百科事典」ではあるが、実際は、それぞれの事柄の解釈に複数の異説があるものだ。であるならば、百科事典の解説を最終的な答えとするわけにはいかない。いろいろな異説を「旅人」として渉猟するのが学問だ。
人間の理性は万能ではない。だとすると、異説の渉猟から「帰らない」ことこそ旅人の本分なのかも知れない。
 

 ハバネロの瓶を出たがるうめき声  笹田かなえ

笹田かなえさんは「川柳展望」「川柳文学コロキュウム」「あさひな吟社」「おかじょうき川柳社」「連衆」「八戸ペンクラブ」会員。 

わたしは辛いものが好きだ。冬の季節になると、行きつけのラーメン屋で超激辛ラーメンを食べるのが私的行事となっている。それは、ハバネロがこれでもかというほど使われたラーメン。
いまでは、きちんと味わって食べるだけの(自慢にもならない)耐性がついているが、はじめてチャレンジしたときは完食することだけに意識を集中した。なにせハバネロは、日本で使われている唐辛子の数倍の辛さである。スープや麺を味わうゆとりはない。
無事完食しおえて「ふ、」と席を立ち、少々自慢げな声のトーンで「ごちそうさま」と店のおばさんに声をかけた。「はーい」と出てきたおばさんはわたしを見るや、一瞬、うごきがとまった。そのあとお釣りを渡すときも、おばさんは、試合後のボクサーでも見つめるように怖々とわたしの顔を見ていた。
いやな予感がした。うちに帰ってすぐに自分の顔を鏡に映してみた。まるで松本清張のように膨張して厚くなった唇が、それはそれは鮮やかなトウガラシ色に染まっていた。

ハバネロ、あれは爆発物である。爆発物であるならば、何かのはずみで「瓶」という密閉容器をたちまち破裂させ、あの強烈な刺激臭を外界にもたらすだろう。「瓶」のなかで「うめき声」を発しながら、ハバネロはそのときを待っている。

 爆発に注意しましょう玉葱には春の信管が仕組まれている  杉ア恒夫(『パン屋のパンセ』)

(つづく)

posted by 飯島章友 at 00:00| Comment(0) | 柳誌レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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