2018年12月27日

千春「するから」を読む

  船を漕ぐ掃除機を忘れないで下さい

一句目から強烈である。この句の主人公は船を漕ぐことを生業としている一介の労働者であり、家庭ではまた良き夫でもある。主人公はそのことを密かに誇りに思っている。今朝のこと、主人公は出勤前に妻から掃除機を買って帰るよう言付けられたのである。掃除機が壊れた家庭はやがて家庭も壊れてしまうという強迫観念に駆られて、良き夫である主人公は仕事中(つまり船を漕ぎながら)もずっと、頭の中で「掃除機を買って帰るのを忘れないで下さい」というセリフが駆け巡っているのである。


  「めっぽう赤い服!」地球が自転するから

めっぽうという言葉は最近なかなか使われないが、ぼくは好きである。なんだか一昔前の大島弓子あたりの少女マンガに出て来そうな言葉ではないか。「めっぽう赤い服!」「めっぽう赤い服!」呪文のように何度も呟いてみる。もうこの9文字、これだけで十分である。「滅法赤い服!」これでは駄目なのである。めっぽうはひらがなでなくっちゃいけない。それなのにその後にくるのが、「地球が自転するから」である。この落差に驚かされる。川柳は言葉を用いた知的なゲームである。千春氏の川柳はそのことをよくわかっていらっしゃる。


  申し訳ないなめ茸がやさしさを失った

主人公はあまり社交的ではないうえに、最近色々やらかしてしまい、もうパニックになってしまった。その為、家族にも周りにも当り散らしてしまい、以前のような生活には戻れなくなってしまった。ただ、このままではいけないことは主人公も勿論わかっているので、自分の身代わりとしてなめ茸を差し出したのだ。なめ茸の入った透明な瓶の中でなめ茸は申し訳なさそうに俯いているのが見えるかもしれない。


かように川柳は刺激的で面白い詩形である。特に今回の千春氏の作品はそれが顕著である。こんなのは川柳ではない、という無粋なことを言う人もいるかもしれないが、そんなことは言わせておけばいいのである。
最後にタイトルが非常にそっけないが内容はそっけなくないのが憎いなあと思った次第である。
posted by いなだ豆乃助 at 18:03| Comment(0) | 今月の作品・鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。