2019年04月09日

万葉集におけるマイク合戦

新元号が令和に決まりましたね。その由来になったということで、いま『万葉集』が脚光を浴びています。わたしの住まい周辺の書店や図書館では、新元号が発表されてすぐに万葉集のコーナーが出来ていました。

万葉集といえば……先日、歌人集団かばんの会では、「笑える歌」で競う歌会が開かれました。わたしは詠草を提出する前に、笑いと短歌の関係について歴史を遡って調べてみました。すると、やはり『万葉集』にいきついたわけです。最古の和歌集ですものね。巻16の戯笑歌・嗤笑歌が笑いや滑稽に関わっています。次の歌は、平群朝臣(へぐりのあそみ)という人が、穂積朝臣(ほづみのあそみ)という人をおちょくっている歌です。
 
  わらはども草はな刈りそ八穂蓼やほたでを穂積の朝臣あそが腋草を刈れ(3842)

・「な〜そ」→〜するな
・「八穂蓼を」→多くの穂のついた蓼を刈って積む意から、人名「穂積」にかかる枕詞。
・「腋草」→腋毛。腋毛を草に見立てた語。一説に、「草」に「臭」の意をかけて「腋臭」のことともいう。

子供たちよ、草なんか刈らないでいいから、ぼうぼうと生えた穂積朝臣の臭い腋毛を刈っちまえ。これくらいの意味でしょうか。穂積朝臣は腋臭なんでしょうね。こういうディスり方は、現代の一部のお笑いやラップミュージック、ネット書き込みにも通じるかも知れませんね。

さて、こんなことを言われては穂積朝臣も黙っていません。こう返します。
 
  いづくにぞ真朱掘る岡薦畳こもだたみ平群の朝臣が鼻の上を掘れ(3843)

・「真朱」→まそほ。顔料にする赤い土。赤い色。
・「薦畳」→マコモで編んだ畳。枕詞としては、いく重にも重ねて編む意から、「重 (へ) 」と同音を持つ地名「平群 」の「へ」にかかる。

何処にあるんだろうか真朱を掘る丘は? 平群朝臣の赤い鼻の上を掘れ。まあ、こんな意味なのでしょう。じぶんの腋臭をディスられた仕返しをしているのですね。赤土はどこだ・・・(あ、そうだ!)平群朝臣の鼻は赤いからそこを掘ろう! って。

どちらも相手の身体的なハンディをおちょくっているのですから、二人の間に信頼関係がないとできない書き方です。わたしたちが公に発表する短歌の参考にはならない。でも、くだけた中にも機知がある二人の応酬を見ていると、現代の種々の興行で見られる「マイク合戦」に似た娯楽性を感じます。そう、嗤笑歌もマイク合戦も、表現者同士の信頼関係によって、また表現者と観客の信頼関係によって娯楽となり、笑いや滑稽への道筋がうまれるのです。
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。