2019年04月26日

喫茶江戸川柳 其ノ肆

小津 みなさんこんにちは。 昔の川柳のおいしいところだけをマスターから伝授してもらおうという、喫茶江戸川柳のお時間が今月もやって参りました。 飯島さん、こんにちは。

飯島 いらっしゃいませ。このお店では江戸川柳、 つまり江戸時代の川柳を楽しみながら珈琲を召し上がっていただけます。

小津 今月はいきなり改まって、 詩歌本流とも言える題材をあつかった川柳を味わってみたいです。 何か面白いものはありますか?

飯島 そうですね…… それでは新年度になったということで桜はいかがでしょうか?

小津 わあ、王道ですね。それでお願いします。

飯島 今年は久しぶりに桜隠しを見ました。桜と雪のコラボ。 何か悩ましい綿菓子でも見ているような、不思議な光景でした。
さて、桜といえば和歌です。紀友則の〈 ひさかたの光のどけき春の日に静心なく花の散るらむ〉、 在原業平の〈 世の中に絶えて桜の なかりせば春の心はのどけからまし〉、 本居宣長の〈しきしまの大和心を人問はば朝日ににほふ山桜花〉 などは有名ですね。これが川柳となるとどうなるか。それでは少々お待ちください。

      * * *

お待たせいたしました、本日の花ぐはし桜セットです。

  花の宵所々に坊主の首くくり
  花の山幕のふくれる度に散り
  花の雨寝ずに塗つたをくやしがり
  三日見ぬ間に花の咲く仲の町
  万仁


小津 一句目〈花の宵所々に坊主の首くくり〉、物騒で笑えます。てるてる坊主を〈首くくり〉という表現と合わせると、この雨乞いのルーツは生贄にあるのかも、と思ったり。

飯島 中国の晴娘伝説が由来だとネットなんかには出ていますね。水没しそうなくらい都市に大雨が降ったとき、晴娘っていう女の子が天の生贄になったことで雨が止んだ、という。生贄とは別の次元になるかもしれませんが、日本のてるてる坊主は全身が白なので、どこかしら日本的な死のにおいを感じます。死装束や武道の道着と一脈通じているのかも、なんて。

小津 わあ、言われてみるとそうですね。あと〈花の宵〉という表現もこの句だと怪しい。不穏な花明りを感じます。二句目〈花の山幕のふくれる度に散り〉は豪勢な雰囲気がいいです。〈山〉とか〈膨れる〉とか。

飯島 花見幕がふくれるのを描写することで言外に風を示唆する。私はそこに惹かれました。

小津 なるほど。上手ですね。

飯島 このほかに〈花の散るたんびに見える白い股〉なんていうマリリン・モンローっぽい句もあって、ここでも風が示唆されています。

小津  春風は花見における、一つの演出道具だったのかな。

飯島  でも〈生酔の突当るたび花の散り〉となるとこれは人災。

小津 あはは。三句目〈花の雨寝ずに塗つたをくやしがり〉は川柳らしい句形。これは何を〈塗つた〉のでしょう?

飯島 江戸庶民にとって花見は一大レクリエーションで、ここぞとばかり贅を尽くしたようです。当時の花見弁当を調べてみると、ピンキリではありますが現代よりもはるかに豪華な段重ねの弁当があって、気合の入り方が伝わってきます。前日から丹精込めて料理をこしらえ、金銀・色糸で刺繍した花見小袖に身を包み、メイクもばっちりキメて出掛けたわけです。〈花〉〈寝ずに塗つた〉とくればこれは化粧のことだな、と当時の人なら分かったんでしょうね。

小津 〈塗つた〉って顔のことだったんだ! そういえば「厚塗り」なんて表現がありましたね。左官屋かっていう。

飯島 〈白壁を両の手で塗る花の朝〉というのもあって、たしかに左官屋さん風味ですね。

小津 四句目〈三日見ぬ間に花の咲く仲の町〉は出だしの句またがりがいいな。

飯島
 〈三日見ぬ間に〉は、大島蓼太の有名な〈世の中は三日見ぬ間に桜かな〉の文句取りですね。仲の町は吉原のメインストリート。小津さんが指摘された〈三日見ぬ間に花の咲く〉という句またがりですが、こうすることによって、開花を待ち焦がれる時間をすっ飛ばしちゃってる感じが出ていないでしょうか。何かいきなり花桜が出現した雰囲気があるというか。

小津 はい。確かにします。 

飯島 ご存知かもしれませんが、吉原では花見の時季になると、開花間近の桜が仲の町に植えられて、あっという間に桜が咲いたそうです。

小津 すごい! わざわざ引っこ抜いてくるんですか。ちょっと嫌だなあ。

飯島 たしかにね。ただその中を、しゃなりしゃなりと花魁道中の行進があったり、植え込みの柵に屋号の書かれた雪洞が掛けられたりして、華麗かつ幻想的な空間が人工的に演出されたようです。吉原は江戸最大のテーマパークでもあったので。

小津 ところでこの句の後ろにある〈万仁〉は、北斎のことでいいのでしょうか?

飯島 確定ではないようですが、北斎と推測されています。百々爺も北斎の柳号と推測されていますが、これは百×百=万だから卍に通じると。写楽=北斎説もありますが、何にせよ二十面相みたいなおっちゃんです。

小津 そうなのですか。 今日は江戸時代の人々の花見を垣間見て、とても良い勉強になりました。まだお花見をしたことがないのですが、もし機会が巡ってきたら前の日にはてるてる坊主を吊るして、当日は頑張ってお化粧をして出かけたいと思います。本日もありがとうございました。  

《本日の花ぐはし桜セット》
花の宵所々に坊主の首くくり  なんとなくホラー度 ★★★☆☆ 
花の山幕のふくれる度に散り  平和な世の中度 ★★★★☆
花の雨寝ずに塗つたをくやしがり  無念やるかたなし度 ★★★★☆
三日見ぬ間に花の咲く仲の町 万仁  大道具がすごいぞ度  ★★★★★

posted by 飯島章友 at 00:00| Comment(0) | 川柳サロン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。