2021年03月28日

星の痛みー千春句集『てとてと』を読む 小池正博



 川合大祐の第二句集『リバー・ワールド』(書肆侃侃房)が近日中に刊行されるようだが、川合のパートナーである千春の句集を取りだして改めて読んでみた。句集を読みながら、五つのキイワードが頭に浮かんだ。

【星】

  微調整して下さい冷蔵庫の星の位置

 冷蔵庫のなかに星を入れておく。あるいは、ふと気がつくと星が保存されていた。けれども、その位置には微妙なズレがある。違和感があるのだ。

  星同士結婚したり別れたり

 擬人化されているが、星と星とが気が合って結婚することがある。けれども、実際の生活がはじまるとケンカしたり、ちょっとしたくい違いで別れたりするが、またもとに戻ることもある。

  なるべくだったら星の話にして

 本当は星の話ではないのだが、できれば星の話にしておきたい。俗世間の聞くに堪えない話は気分が悪くなるので、天上の星の話だったらいいのに。

  埋もれる罅われ星の開拓史

 水惑星ではなく罅われている星がある。それでも何とかやってきたのだが、そんな歴史もすでに風化して埋もれている。

【病気】

  こんないい病気をくれてありがとう

 病気が好きな人はいないから反語である。病気も自分の一部だから受け入れていくしかない。

  入院はしないから退院もしない

 入院したからといって、どうなるものでもない。病気は自分自身だから、入院も退院もないのだ。

  どんぐりころころ処方箋下さい

 けれども、その時々で処方箋が必要になる。ころころとちょっとだけ前に進む。

  女陰には女陰の薬あばれるな

 セックスに関わる身体用語を千春はしばしば使う。吐き出しておかなければ暴発するものがある。

  けんかするしんさつしつがきえさって

 人間関係のトラブルで、診察どころではなくなってしまう。

【ジェンダー】

  ナプキンの出番がこない月割れる

 女性の生理と身体について。

  婦人科の男がみてる黄泉の国

 男性に見られるものとしての身体について。

  例えば、女の自分に慣れてきた

 心と体のズレ。ズレがあっても「ふり」をして生きていかなければならないのが生活である。演技にも慣れてきたのだが、それが良いことなのかどうか分からない。

【動物たち】

  思い出は鯨にそってさかのぼる
  鳥去って開かずの間などありません
  こぼしたね羆ゆるしてしまったね

 動物を使った作品に秀句が多い。「猫」はここでは取り上げない。

【バス】

  バスは遅れたいとき遅れればいい

 けっきょく、そういうことなんだな。日常生活者の立場からすれば、時間通りに来ないバスは困るだろう。けれども、こういう心境で生きていくことができれば楽になるだろう。周囲の人がそれを認めてくれればいいのだが。
posted by 川合大祐 at 08:50| Comment(0) | 川柳句集を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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