2019年02月13日

久保田紺句集『大阪のかたち』

久保田紺句集『大阪のかたち』(2015年・川柳カード)
編者 小池正博

ざぶざぶと醤油をかけて隠すもの
ひまなところに稲荷寿司詰め合わす
ショッカーのおうちの前の三輪車
絶叫のカバ誰が妖怪やねん
唐揚げになるにはパンツ脱がないと
高島屋ですが大根売ってます
遠くから見るといいやつだった島
きれいなカマキリに食べてもらいなさい
褒められたあたりにはもう行けないね
あいされていたのかな背中に付箋
着ぐるみの中では笑わなくていい
撒いた餌くらいは食べて帰ってね
呑み込んであげるカプセルにお入り


人は、或る人が亡くなってから生前の仕事や才能に関心を抱くことが多いと思います。わたしもそんなひとりです。でも、久保田紺さんにかんしては違います。お会いしたことこそありませんが、亡くなる前からずっと彼女の作品に注目し、愛読してきました。紺さんの川柳はとにかく愉しい。なので、何かに迷っているときなどには紺さんの川柳を読み、気持ちをリフレッシュさせていました。それは今でも変わりません。彼女が作句を始めたのは2005年だそうです。だからそれほどベテランというわけではなかった。やはり言語の才能に恵まれていたのでしょう。これからも紺さんの川柳が読み継がれていってほしい。切にそう思います。

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2019年01月27日

定金冬二句集『一老人』

定金冬二句集『一老人』(2003年・詩遊社)
編者 倉本朝世

余所のピアノでボクは静かに風邪をひく
ぼくが倒れたのは引力のせいなのか
紙ヒコーキから落ちて 少年兵勃起
一老人 交尾の姿勢ならできる
ぼくのためにぼくがいて哀しみはふえる
軍事評論家のはるかなる風景画
頭が悪いので天皇にあいに行く
俺は 12月の風船なのか 神よ
かすかな期待で柩の蓋をする
神に手を合わすぼくにも手を合わす
一老人 風の割れ目で息をして
お祝いとして少年の瞳をもらう
てのひらの汚れをてのひらでぬぐう



倉本朝世編。「一枚の会」「新京都」「アトリエの会」「韻」「CIRCUS」「連衆」と「津山川柳大会」の発表誌を参考に、1984年〜1995年までの240句が選ばれている。これ以前、冬二には『無双』(1984年)という句集があり、そこには〈穴は掘れた死体を一つ創らねば〉など、1945年〜1983年までの1200句が収められている。ちなみに『無双』は、なかはられいこさんのブログ「そらとぶうさぎ」で閲覧することができる。

定金冬二(1914年〜1999年)の川柳には、作者の境涯から発せられる臭いをつよく感じる。だが、作者の境涯を素直に叙述しているということではない。冬二の川柳は作者の境涯から出発しつつも、川柳というステージで自身を演じている雰囲気がどこかある。それは、冬二と同じ年齢の歌人・山崎方代にも通じる雰囲気だ。こうなるともう、境涯派か言葉派かという分け方は意味がなくなってしまうかも知れない。

あざみエージェント『一老人』

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2019年01月12日

「川柳北田辺」第98回(2018・12月)

「川柳北田辺」第98回
発行人・編集人 竹下勲二朗

黄色から分母を借りて伏せなさい  亜蘭(兼題「伏せる」岡田幸男選)
真ん中を伏せ字にされて恥ずかしい  秀・きゅういち(  〃  )
ヨオッヨオッと火曜日の不燃物  智史(兼題「ヨオッ」宮井いずみ選)
肉じゃがのヨオッがうなじに引っ掛かる  律子(  〃  )
竹の皮で造るぼっちゃんのネクタイ  一筒(兼題「坊ちゃん」きゅういち選)
鯨肉に本家のボンは欲情す  秀・豆乃助(  〃  )
感じちゃう地下鉄のピッてするところ  くんじろう(兼題「感」山口ろっぱ選)
お前はもう死んでいるとついさっき  軸・律子(兼題「後はよろしく」森田律子選)
昨日まで金魚でしたとアドバルーン  かがり(席題4 かがり・出題「金魚」きゅういち選)
シマムラの丸首シャツからDJスサノオ  秀・ろっぱ(席題5 ろっぱ・出題「丸」井上一筒選)
ぶらさげたニンジン ニンジンのままで  幸彦(席題6 一筒・出題「乾く」岡田幸男選)

くんじろうさんが毎月開催・発行している「川柳北田辺」より。内容は句会報が中心なのですが、巻頭にはくんじろうさんの川柳時評ともいえる「放蕩言」が、巻末には酒井かがりさんの四コマ漫画が載っており、文芸誌として充実しています。

あくまでもわたしの感じ方ですが、北田辺の川柳を読んでいると〈伝統性〉をすごく感じます。といっても、所謂〈伝統川柳〉のそれではない。狂句、ばれ句、新興川柳、戦後革新川柳など、これまでの川柳の歴史的な成果すべてを集約している、という意味での伝統性です(わざわざこういうことを言うのは、狂句は川柳ではない、ばれ句は川柳ではない、レトリックを駆使した難解句はダメだ! といった類の公式主義がまだまだ川柳界で強いからです)。

先月発行された「川柳杜人」第260号にくんじろうさんは、「ふらすこてんが終わってしまったではないか!バカヤロウ!」という文章を寄稿されています。その冒頭では、「バックストローク」「川柳カード」「京都黎明社」「玉野川柳大会」「川柳結社ふらすこてん」が終わってしまったことを嘆いておられます。良心的な関西の川柳グループが次つぎと閉会してしまったことは無念だと思います。でも、「川柳北田辺」があるじゃないか、とわたしは言いたい。それくらい、北田辺の川柳は自由自在で面白い。

なお、今月1月20日の句会は100回記念だそうです。兼題は、「百」「太る」「女の子〜だなんて」「鉄板」「レロレロ」「ビー玉」「接着剤」「百一」を各題2句。前日までに出欠を、欠席投句は2日前までに郵送。わたしも投句しようと思っています。

新しく参加・投句される方は、くんじろうさんのツイッター、フェイスブック、ブログなどから要領をお尋ねください。

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2018年11月15日

『細田洋二作品集』

川柳ジャーナル別冊『細田洋二作品集』(昭和48年)
編集人 松本芳味
発行人 河野春三

サルビア登る 天の階段 から こぼれ
角膜 島に移植して 来る夕日
渚の死木 月の傾斜を受信して
紅生姜一片残す夕焼 の秘密
言葉に言葉が跨がり ダイヴィングする淵
平仮名な睡眠を三枚に下ろす風
辞書ひいてレール病んでる 明けるなよ
腹話術 鏡となって鏡打ち
額から身銭を削り落とす月
エーテルな梢を辿る魚路



本作品集の河野春三の跋より細田洋二の言葉を引用しておきます。

「新しい言葉というものは、平凡な日常的な事実に新しい照明が与えられ、もう一度意味をもって出て来るために生まれてくる。即ち言葉が新しく生まれかわる。蘇生するのである」
「流動する現代にあって、先ず現在の状況の中における自己の価値意識を確立することこそ急務であり、非日常性を発くつし、道具的言語をよみがえらせ、沈黙の淵に沈潜し、そこから強い凝視に支えられた明確なイメージを獲えてゆく外は、言葉の復権、回復などあり得ない」

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2018年11月10日

川柳雑誌「風」110号

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川柳雑誌「風」110号
編集・発行 佐藤美文

今号は、第十九回風鐸賞の発表号でした。選考委員は木本朱夏、雫石隆子、新家完司、津田暹、成田孤舟の各氏。正賞、準賞ともに十四字詩から選ばれました。

結果は以下のとおり。
■正賞 林マサ子(12点)
■準賞 藤田誠(5点)・齋藤由紀子(4点)

各応募作品の十句から、複数の選考委員が選評で触れている句を引かせていただきます。

なぞなぞ解けて蕾ほぐれる  林マサ子
哲学してる秋のカマキリ
手の鳴る方へ靡かない老い  藤田誠
好きな匂いに弱いたそがれ
無駄話にも栄養がある

天下無敵になれるおばさん  齋藤由紀子

いずれも人生や生活をリズム良く十四音に乗せていて、さすがという感じです。いま、わたしの知るかぎり、十四字詩(七七・短句)を前面に押し出している柳誌は「風」のみですが、今後、十四字詩の書き手が増えて新しい世代が出てくると、また趣の違う十四字詩が出てくるのではないでしょうか。私的には、林マサ子さんの「なぞなぞ解けて蕾ほぐれる」に、これからの十四字詩の方向の一端が胚胎しているような気がします。

十四字詩といえば、現在、本間かもせりさんが以下で頻繁に作品を発表されています。

七七句(十四字詩・短句)

十七音の川柳も未開拓なことが山積みでフロンティア精神が刺激されるのですが、十四音の川柳はその存在が発見されていないに等しい状態だと思います。ですから、これからこの分野をきちんと認識し、確認したうえで、どう開拓していくか。有志で話し合って戦略を練らないといけないかなと思っています。その意味で、かもせりさんのご活躍はとても刺激になっているのです。

参考
【短句】誹諧武玉川の短句と近現代の川柳十四音【十四字詩】@
【短句】誹諧武玉川の短句と近現代の川柳十四音【十四字詩】A


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