2017年06月11日

約束の土地へ:200字川柳小説  川合大祐

神に告げられた。「お前を祝福しよう。お前がいちど左折するたびに、地球の直径を1センチ縮めてやろう」。翌日、どうしても役所に行かなければならず家を出た。道が分かれているところに来ると、必ず右に曲がった。どんどん進路は目的地からずれて行き、役場も家も遠くに過ぎ去った。憔悴した、魅力的な人に出会った。「私が右折する度に、地球が1センチ縮むんです」とその人は言って左折していった。もう会うことはないだろう。

  左折左折左折 小さくなるわけだ  三浦潤子(「川柳カモミール」第1号より)

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2017年06月04日

デザイアー・フォー・コミュニケーション:200字川柳小説  川合大祐

外面如菩薩、内心如夜叉という言葉があてはまるかどうかわからないが、君は味噌だ。内心にどんなしょっぱさがあるのか、僕にはわからない。そもそも味噌の君に内心があるのかわからない。だいいち味噌の内心とは何なのか、そのうえ君とは一体何なのか、いやまず僕とは何だったのか、僕らにはわからない。そんな僕らは眠る、眠らなくても明日は来るのかどうかわからない。ただわかる、味噌は重いと言うことが。僕にはわからないが。

  眠り込む君の乳房の破壊力  藤みのり(今月の作品「慈しみ」より)

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2017年05月28日

ビバノンノン:200字川柳小説  川合大祐

「ぬばたま湯」がバスクリンを使っていた問題で閉鎖される前夜、ばらまかれた化学兵器で人類は滅びた。地球上のあらゆる生物が滅びた。ただ「ぬばたま湯」の太陽光自動給湯システムのみがうんうんと稼働していた。数億年が経った。「ぬばたま湯」はまだ建っていた。そしてその浴槽では、化学反応が起ころうとしていた。バスクリンと化学兵器が化合して、生命体が産まれようとしていた。やがて新たな時代、バスクリン期がはじまる。

  バスクリンばらまいて世界変えてやる  瀧村小奈生(ゲスト作品「射干玉の」より)

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2017年04月09日

初期の終わり:200字川柳小説  川合大祐

まさか世界が終わるとは思っていなかったので、靴下を干しっぱなしにしたまま出勤してしまった。空は当然のように黒雲である。駅から家に続く、まっすぐで液状化した舗道には、整然と人々が上半身を突っ込んでいた。下半身がむき出しの状態だから、各々の靴下がよく見えた。ムエタイの、百合姫の、ロボット三原則の柄の靴下が並び、ぬかるむ道をやっと家まで辿り着いた。物干場に出ると、靴下が片方、どこかへ行ってしまっていた。

  靴下がやっと乾いたという敬愛  樋口由紀子(「川柳カード」14号より)

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2017年04月02日

原子怪獣現る:200字川柳小説  川合大祐

「ドラえもんのひみつ道具に、「なんでもB級映画カメラ」というのがあったどうか知らないか。とにかく、これで撮ったような『細雪』だった。ひたすら飯を食い続けるし、巨大災害のスペクタクルもあるし、スカトロまである。日本文学の麗しさがこれでは台無しではないか」という投書が新聞に載った朝、彼は大学で乱射するための銃を磨いているところだった、という脚本を書いたが没だった、という夢を見なかったというオチである。

  きみもまたとおい霧笛をきくでしょう  山中千瀬(今月のゲスト作品「暮らしラッシュ」より)

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