2017年07月23日

白夜考:200字川柳小説  川合大祐

わが町にもスターバックスができたので、藤原鎌足について考える。クーラーがあの世のようにつめたい店内で、藤原鎌足について考える。前世紀の理想化されたアンドロイドのような溌剌としたバリスタを見ながら、藤原鎌足について考える。いつもキタムのアイスコーヒーを飲みながら、藤原鎌足について考える。ふと気付くと、目の前の君がすこし怒っているので藤原鎌足について考える。「今、藤原鎌足考えてたでしょ」うなずかない。

  セロファンに包まれてきた藤原鎌足  山口ろっぱ(「川柳北田辺」80号より)

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2017年07月16日

ウィズ・トゥース:200字川柳小説  川合大祐

そうね、みんな知ってるけど、シンデレラが置き忘れていったのはガラスの総入れ歯だってこと。ママはラジオに投書してたわ。「この国の美徳はどこにいったのでしょう。入れ歯なんて、外から見るぶんにはわからない、口内に入れるのは絶対イヤなものを自己認証に置いて行くなんて、あまりにも卑劣ではありませんか。卑劣です」。要するに、みんな嫉妬に狂ってたわけ。え?あたしの入れ歯なら、桜の下に埋めて、どの木だか忘れたの。

  君を見る桜にすらも嫉妬して  千春(「川柳の仲間 旬」No.212より)

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2017年07月09日

何かを思い出す:200字川柳小説  川合大祐

トラウマなど存在しない、と言うのが少し昔に流行った言葉らしいが、しかし道にカツ丼が落ちていた。日々の繰り返しの中で緑に錆びてゆき、凡々とした光景に沈むがゆえに、かえって光り輝く通勤路の上に、カツ丼が落ちていた。それも丼の蓋が「もっと開けてくれ」と言わんばかりに微妙な擦れ具合を見せており、そこから青い物体の片鱗と青い臭いが漏れてくるのだった。もう食べるしかないが、箸が無いのだった。胃は空の儘でいる。

  胃カメラのぬるりと覗く過去の街  山河舞句(「川柳杜人」2017夏より)

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2017年07月02日

ヒューマン・コックファイト:200字川柳小説  川合大祐

戴冠してから四十年、不敗の王者でいる訳だが、この四十年いちども試合をしていないのは矢張り問題だろうか。「エンヤに合わせて踊りながら、互いの鼻腔に突っ込んだ歯ブラシを引き抜き合う」という単純なルールなのに、挑戦者が誰も来ない。これはエンヤが良くないな。ビーチボーイズにしよう。それにしても暇なので道場破りにでも行く。すいませーん王者ですが。何の王者か、ですか。忘れました。それじゃまた。明日はどっちだ。

  春うらら鶏冠をつけるのを忘れ  広瀬ちえみ(今月の作品「切手の鳥」より)

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2017年06月25日

長編:200字川柳小説  川合大祐

若者よ、わしらが若い時分には王貞治という選手がおってのう。ホームランを三千本くらい打ったんじゃないか。王さんが打つ度に日本全国で花火があがって、パチンコは全台777になって、犬は喜び庭駆け回ったもんじゃよ。そんな王さんじゃが、手術前の子供に「僕のためにホームランを打って下さい」と言われ「いえ。本塁打というのは神に捧げる供物なのです。一本たりとも腐っていてはなりません」と答えたそうな。遠い記憶じゃ。

  「感動を与えたい」など花笑う  竹内美千代(「川柳の仲間 旬」第211号より)

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