2017年04月09日

初期の終わり:200字川柳小説  川合大祐

まさか世界が終わるとは思っていなかったので、靴下を干しっぱなしにしたまま出勤してしまった。空は当然のように黒雲である。駅から家に続く、まっすぐで液状化した舗道には、整然と人々が上半身を突っ込んでいた。下半身がむき出しの状態だから、各々の靴下がよく見えた。ムエタイの、百合姫の、ロボット三原則の柄の靴下が並び、ぬかるむ道をやっと家まで辿り着いた。物干場に出ると、靴下が片方、どこかへ行ってしまっていた。

  靴下がやっと乾いたという敬愛  樋口由紀子(「川柳カード」14号より)

posted by 川合大祐 at 00:00| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月02日

原子怪獣現る:200字川柳小説  川合大祐

「ドラえもんのひみつ道具に、「なんでもB級映画カメラ」というのがあったどうか知らないか。とにかく、これで撮ったような『細雪』だった。ひたすら飯を食い続けるし、巨大災害のスペクタクルもあるし、スカトロまである。日本文学の麗しさがこれでは台無しではないか」という投書が新聞に載った朝、彼は大学で乱射するための銃を磨いているところだった、という脚本を書いたが没だった、という夢を見なかったというオチである。

  きみもまたとおい霧笛をきくでしょう  山中千瀬(今月のゲスト作品「暮らしラッシュ」より)

posted by 川合大祐 at 00:00| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月26日

ダウンワード・スパイラル:200字川柳小説  川合大祐

エメサ王国の祭祀場で死別して以来、魂はかの面影を求め、果てのない輪廻を繰り返し続けた。ある時は木村政彦対エリオの試合場で、ある時は銀河連邦の舞踊会議場で、かの面影を探し続けた。そのうちに気付くのだ。輪廻は円環ではないと。ある点から始まった線が、回転しながら垂直に上昇してゆくのだと。ならば、もう会うことは無いのだなと思った。だが魂は探し続ける。螺旋。そう螺旋だ。重要なのは連続だった。うんこのように。

  蚊取線香上のうんこ  二村鉄子(「川柳ねじまき#3」より)

posted by 川合大祐 at 00:00| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月19日

残酷!光怪獣プリズ魔:200字川柳小説  川合大祐

何もかもが透きとおった世界だ。海もビルも蠅も光を通過させて、ただ、その方向を屈折させている。光の分散はさらに分散し、結局は透きとおるだけになってしまうのだった。波打ち際に、魚が一匹流れ着いた。流線型の、黒々とした魚だった。冷たく、それは世界のすべてと同じだった。だが、この黒さは何なのだろう。体内に何かを秘めることのできる黒さは。腹に切れ目を入れてみた。溢れる内臓は、次から次へと透きとおっていった。

  魚の腹ゆびで裂くとき岸田森  なかはられいこ(「川柳ねじまき#3」より)

posted by 川合大祐 at 00:00| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月12日

南極熊の生態:200字川柳小説  川合大祐

【和名】ナンキョクグマ【学名】ウルスス・メンダシウム【体長】0.05mm〜50M【平均寿命】1週間【特長】外見上はホッキョクグマに酷似しているが、縞柄や豹柄、まれに透明の個体も存在する。主食はココナッツであり、別個体の頭部に殻を打ちつけて割る。ために同族との接触を極度に警戒するが、常に実を咥えている。あらゆる論文・事典・WEBから抜け落ちる習性を持つため、この種を記述した文章はどこにも存在しない。

  白夜来て南極熊が踊り出す  いば ひでき(今月の作品「ギター」より)

posted by 川合大祐 at 00:00| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする