2017年08月06日

パーソナル・データ:200字川柳小説  川合大祐

デスメタルが好きで、毎晩聴かないと眠れないのに、昨夜は「伊那華浪曲の会」へ親の強制で出席させられていたので、電気羊の夢を見続けて眠れなかった生徒がいた。ガマの油の売りすぎで声が涸れている生徒がいた。ミスター・スポックと言われるのが嫌で、昨日ついに整形手術の申し込みをしたのだが、身体髪膚へ傷つけることに罪責を感じている生徒がいた。実は自分は神様なのだと解ってしまっている生徒がいた。音楽室が破裂した。

  斉唱に音楽室は破裂して  若草のみち(今月のゲスト作品「斉唱」より)

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2017年07月23日

白夜考:200字川柳小説  川合大祐

わが町にもスターバックスができたので、藤原鎌足について考える。クーラーがあの世のようにつめたい店内で、藤原鎌足について考える。前世紀の理想化されたアンドロイドのような溌剌としたバリスタを見ながら、藤原鎌足について考える。いつもキタムのアイスコーヒーを飲みながら、藤原鎌足について考える。ふと気付くと、目の前の君がすこし怒っているので藤原鎌足について考える。「今、藤原鎌足考えてたでしょ」うなずかない。

  セロファンに包まれてきた藤原鎌足  山口ろっぱ(「川柳北田辺」80号より)

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2017年07月16日

ウィズ・トゥース:200字川柳小説  川合大祐

そうね、みんな知ってるけど、シンデレラが置き忘れていったのはガラスの総入れ歯だってこと。ママはラジオに投書してたわ。「この国の美徳はどこにいったのでしょう。入れ歯なんて、外から見るぶんにはわからない、口内に入れるのは絶対イヤなものを自己認証に置いて行くなんて、あまりにも卑劣ではありませんか。卑劣です」。要するに、みんな嫉妬に狂ってたわけ。え?あたしの入れ歯なら、桜の下に埋めて、どの木だか忘れたの。

  君を見る桜にすらも嫉妬して  千春(「川柳の仲間 旬」No.212より)

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2017年07月09日

何かを思い出す:200字川柳小説  川合大祐

トラウマなど存在しない、と言うのが少し昔に流行った言葉らしいが、しかし道にカツ丼が落ちていた。日々の繰り返しの中で緑に錆びてゆき、凡々とした光景に沈むがゆえに、かえって光り輝く通勤路の上に、カツ丼が落ちていた。それも丼の蓋が「もっと開けてくれ」と言わんばかりに微妙な擦れ具合を見せており、そこから青い物体の片鱗と青い臭いが漏れてくるのだった。もう食べるしかないが、箸が無いのだった。胃は空の儘でいる。

  胃カメラのぬるりと覗く過去の街  山河舞句(「川柳杜人」2017夏より)

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2017年07月02日

ヒューマン・コックファイト:200字川柳小説  川合大祐

戴冠してから四十年、不敗の王者でいる訳だが、この四十年いちども試合をしていないのは矢張り問題だろうか。「エンヤに合わせて踊りながら、互いの鼻腔に突っ込んだ歯ブラシを引き抜き合う」という単純なルールなのに、挑戦者が誰も来ない。これはエンヤが良くないな。ビーチボーイズにしよう。それにしても暇なので道場破りにでも行く。すいませーん王者ですが。何の王者か、ですか。忘れました。それじゃまた。明日はどっちだ。

  春うらら鶏冠をつけるのを忘れ  広瀬ちえみ(今月の作品「切手の鳥」より)

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