2017年02月19日

薔薇の名前:200字川柳小説  川合大祐

「1877年、マーシュとコープとの間に勃発した〈化石戦争〉において」と〈博士〉は語りはじめ、「結果として、〈ブロントサウルス〉の名前を」と続けた時、〈偉人〉が乱入してきて、「〈ブロントサウルス〉はその名前であり続けるべきだ」と銃を振り回すのを〈下駄日和〉が制止して、「名前などどうでもいいだろ」、「いや」と〈水母に似た彗星〉が異議を唱え、「私達のあだ名は考えるべきだ」、ところで、吾輩は〈猫〉である。

  おまえのせぼねにあだ名をつけてやる博士泣きながら  柳本々々(「そういえば愛している」/『川柳サイド Spiral Wave』より)

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2017年02月12日

ダンス・ウィズ・モスラ:200字川柳小説  川合大祐

まこと、モスラさんのまえでで踊る舞子さんちゅうもんはな、えれえずくのいるお役目だもんで、はあるかこっち、つとめる者もおらんくなっちまった。見らし、モスラさんも呆れて卵から孵って来ないに。若えのには、モスラさんが寝てたほうが平和でいいっちゅうもんもおるけど、奴らだって、ほんとは見てえずら。モスラさんがもう一遍、卵から這い出して、羽広げてけえってくるところ。まあ、卵が腐ることあねえ。ここは冬の国だに。

  おいそれと腐りはしないフラダンス  榊陽子(「ユイイツムニ」/『川柳サイド Spiral Wave』より)

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2017年02月05日

(マックイーンの絶対の)危機:200字川柳小説  川合大祐

状況は急迫している。「本日は閉店しました」の貼り紙を留めておく五寸釘が全部引き抜かれて、閉店することができない。それなのに客はひとりもやって来ない。明日は局地的に核戦争が始まるかもしれないのに、運が悪い。隣が金物屋なので、五寸釘を買って来ようかと思うが、その隙に客が来ないとも限らない。何もかも限らない世界の、限られた終末がやって来ようとしている。状況は急迫している。だから、叫べ、「たすけて〜」と。

  「たすけて〜」と干ぴょうは叫べない  岩田多佳子(ゲスト作品「くぐもる」より)

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2017年01月29日

もう、何も怖くない:200字川柳小説  川合大祐

西暦2XXX年、降り注いだ宇宙線は、あらゆる物質を軟化させ、融合させていった。都市のコンクリートは人間の体細胞と交わり、地球は新たなる進化の時を迎えようとしていた。ある一室に、最後の男とパソコンが残された。先刻までいた最後の女のメモを読む。「すがやみつる『ミラクル一番おれは天兵』でテレパシーがオープンチャンネルしたとこの台詞って『F・1キッド』の第一話のだよね」。柔らかい都市で男は「か、固いな」。

  マニアには悲しいほどのやわらかさ  兵頭全郎(「天使降る」/『川柳サイド Spiral Wave』より)

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2017年01月22日

猫は勘定に入れません:200字川柳小説  川合大祐

妻の両親が旅行に出かけ、彼女の実家に飼い猫の様子を見に行くことになった。実家と言っても車で五分もしない。細道を走っていると、何かが目の前を走っている。猫か、と思ったが、「ぴょおーん」という跳ね方をしているのだった。ライトの照明圏を過ぎているので、いまいち姿が判然としない。しかしどうも二本足で跳ねているのだった。妻と「あれ……カンガルーだよね」ということで結論づけてしまった。真夏の夜のことであった。

  猫の道魔の道(然れば通る) だれ  飯島章友(『川柳サイド Spiral Wave』所収 *本日、文学フリマ京都にて販売します)

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