2017年02月05日

(マックイーンの絶対の)危機:200字川柳小説  川合大祐

状況は急迫している。「本日は閉店しました」の貼り紙を留めておく五寸釘が全部引き抜かれて、閉店することができない。それなのに客はひとりもやって来ない。明日は局地的に核戦争が始まるかもしれないのに、運が悪い。隣が金物屋なので、五寸釘を買って来ようかと思うが、その隙に客が来ないとも限らない。何もかも限らない世界の、限られた終末がやって来ようとしている。状況は急迫している。だから、叫べ、「たすけて〜」と。

  「たすけて〜」と干ぴょうは叫べない  岩田多佳子(ゲスト作品「くぐもる」より)

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2017年01月29日

もう、何も怖くない:200字川柳小説  川合大祐

西暦2XXX年、降り注いだ宇宙線は、あらゆる物質を軟化させ、融合させていった。都市のコンクリートは人間の体細胞と交わり、地球は新たなる進化の時を迎えようとしていた。ある一室に、最後の男とパソコンが残された。先刻までいた最後の女のメモを読む。「すがやみつる『ミラクル一番おれは天兵』でテレパシーがオープンチャンネルしたとこの台詞って『F・1キッド』の第一話のだよね」。柔らかい都市で男は「か、固いな」。

  マニアには悲しいほどのやわらかさ  兵頭全郎(「天使降る」/『川柳サイド Spiral Wave』より)

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2017年01月22日

猫は勘定に入れません:200字川柳小説  川合大祐

妻の両親が旅行に出かけ、彼女の実家に飼い猫の様子を見に行くことになった。実家と言っても車で五分もしない。細道を走っていると、何かが目の前を走っている。猫か、と思ったが、「ぴょおーん」という跳ね方をしているのだった。ライトの照明圏を過ぎているので、いまいち姿が判然としない。しかしどうも二本足で跳ねているのだった。妻と「あれ……カンガルーだよね」ということで結論づけてしまった。真夏の夜のことであった。

  猫の道魔の道(然れば通る) だれ  飯島章友(『川柳サイド Spiral Wave』所収 *本日、文学フリマ京都にて販売します)

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2017年01月15日

一杯:200字川柳小説  川合大祐

「烏龍茶か。まあいいが、人間酔うときも必要だぞ。若者には特にな。いつまでも若い若いと思っていると、あっと言う間に歳を取る。つまりだ、若者には未来がないということだ。ひきかえ老人には無限の可能性があるぞ。この歳になるとな、ちょっとのことじゃ驚かん。狼男というのがいてな、藤田平も松田聖子もこの類らしい。毎晩月が昇ると毛が生えてくる。知らなかったろう。お前も歳食えば解るだろうが、酔っぱらいは信じるなよ」

  お爺酔えば「コンクリートに毛が生えてッ」  石田柊馬(「ふらすこてん」第49号より)

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2017年01月08日

ことばのてざわり:200字川柳小説  川合大祐(長野県民)

「相撲」は「秋」の「季語」らしい。相撲も秋も季語もこの手で触れた事は無いのだが。ただデータ上、2017年1月8日から両国で相撲がはじまると言うのも、事実らしい。1月は確か秋ではない筈で、この現象を、並行宇宙の証拠と考察すればいいのだろうか。二つの世界、相撲が秋にしか存在しない世界と1月にも存在する世界の境界線はどこか。たぶん存在的と存在論的の差異に帰着するのだ、だから叫ぼう、「がんばれ、御嶽海」。

  帰らない言葉があるよ相撲にも  宝川踊(ゲスト作品「LUNCH BOX」より)

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