2017年07月16日

ウィズ・トゥース:200字川柳小説  川合大祐

そうね、みんな知ってるけど、シンデレラが置き忘れていったのはガラスの総入れ歯だってこと。ママはラジオに投書してたわ。「この国の美徳はどこにいったのでしょう。入れ歯なんて、外から見るぶんにはわからない、口内に入れるのは絶対イヤなものを自己認証に置いて行くなんて、あまりにも卑劣ではありませんか。卑劣です」。要するに、みんな嫉妬に狂ってたわけ。え?あたしの入れ歯なら、桜の下に埋めて、どの木だか忘れたの。

  君を見る桜にすらも嫉妬して  千春(「川柳の仲間 旬」No.212より)

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2017年07月11日

「っぱねえっす、ぱねえっす」と来る寒太郎  魚澄秋来


「っぱねえっす、ぱねえっす」と来る寒太郎  魚澄秋来

名古屋のリアル句会「ねじまき句会」がネット上で句会を行った「ねじまき番外編」より。

鉤括弧の「っぱねえっす、ぱねえっす」は、「半端ない」という俗語がさらにくだけた言い回し。「まったく」という言葉が、マンガや若者向けドラマの台詞では「ったく」と略して表されることがあるけど、あれと同じような感じだと思う。
ちなみに「っす」は「です」の変化で、「口語の丁寧語の終助詞。聞き手に対する敬意を示す。知的なイメージは無い」とリンク先に書いてあったっす。

また「寒太郎」とは、NHKの「みんなの歌」でおなじみの楽曲「北風小僧の寒太郎」のことだろう。わたしも幼児の時分によく歌っていたおぼえがある。

さて、掲出句で面白かったのは、「っぱねえっす、ぱねえっす」という鉤括弧内の〈話言葉〉が〈オノマトペ〉としても機能しているように思えたからだ。というか初見でわたしは、鉤括弧がついているにもかかわらず、まず寒太郎=北風のオノマトペとして受け取ったくらいで。
それは、北風の一般的なオノマトペ「ぴゅうぴゅう」のP音と「ぱねえっす」のP音が共通したからかも知れない。あるいは「っぱ」「えっす」という促音が、寒太郎=北風の力強くも無邪気な動きを想起させたからかも知れない。いずれにせよわたしの頭の中では、寒太郎=北風が「っぱねえす、ぱねえっす」と言いながら空でくるくると回転し、街中に寒気をふりまく映像が再生されている。

或る音が複数の表現機能を兼ね備える例として次の短歌を思い出した。

音速のセナや おおおお 咲き盛るセナや おおおお 万乗のセナ…  池田はるみ『妣が国大阪』

音速の貴公子≠アとアイルトン・セナの人気はすさまじかった。と同時に、賛否はあるようだけど、古舘伊知郎のF1実況も強烈な印象をのこした。
掲出歌の「おおおお」という音は、〈レーシングカーの通過音〉〈観客たちのどよめき〉、そして古舘伊知郎の十八番である〈おおおっと!〉など、さまざまな表現へと連絡していく。また「天子。また,天子の位」という意味の「万乗」が、「中国の周代に,天子は戦時に兵車一万両を出した」のが元だと分かると、「おおおお」は〈兵車一万両の地響き〉にすら連絡していく。

何はともあれ今回の魚澄作品は、去年出合った川柳の中でも特に印象深く、最近もしょっちゅう口遊んでいるのであります。



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2017年07月09日

何かを思い出す:200字川柳小説  川合大祐

トラウマなど存在しない、と言うのが少し昔に流行った言葉らしいが、しかし道にカツ丼が落ちていた。日々の繰り返しの中で緑に錆びてゆき、凡々とした光景に沈むがゆえに、かえって光り輝く通勤路の上に、カツ丼が落ちていた。それも丼の蓋が「もっと開けてくれ」と言わんばかりに微妙な擦れ具合を見せており、そこから青い物体の片鱗と青い臭いが漏れてくるのだった。もう食べるしかないが、箸が無いのだった。胃は空の儘でいる。

  胃カメラのぬるりと覗く過去の街  山河舞句(「川柳杜人」2017夏より)

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2017年07月02日

ヒューマン・コックファイト:200字川柳小説  川合大祐

戴冠してから四十年、不敗の王者でいる訳だが、この四十年いちども試合をしていないのは矢張り問題だろうか。「エンヤに合わせて踊りながら、互いの鼻腔に突っ込んだ歯ブラシを引き抜き合う」という単純なルールなのに、挑戦者が誰も来ない。これはエンヤが良くないな。ビーチボーイズにしよう。それにしても暇なので道場破りにでも行く。すいませーん王者ですが。何の王者か、ですか。忘れました。それじゃまた。明日はどっちだ。

  春うらら鶏冠をつけるのを忘れ  広瀬ちえみ(今月の作品「切手の鳥」より)

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2017年07月01日

切手の鳥   広瀬ちえみ


春うらら鶏冠をつけるのを忘れ

条件は嘴があり羽があり

たまたまもまたまたもあり鳥墜ちる

軍配はうちのインコのおしゃべりに

高い木の枝に逃げるが勝ちですの

黒い鳥になって影絵の黒い木に

そらいろの童話のなかへ飛んでゆく

亡亡亡切手の鳥はこう鳴くの



【ゲスト・広瀬ちえみ・プロフィール】
「川柳杜人」編集、「垂人」編集発行。句集『セレクション柳人 広瀬ちえみ集』等。
仙台市在住。


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切手の鳥.gif

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