発行人 樋口由紀子
編集人 小池正博
【同人作品】
格納庫猫が前夜を舐めている 石田柊馬
おぼろ月やがて水汲む人になる 畑美樹
分度器はもっと遠くに飛んでいく 樋口由紀子
退屈の果ての溶けないミズクラゲ 平賀胤壽
茶葉として姦通罪を言い渡す 榊陽子
速やかに鯵の開きを秘匿する 飯島章友
舌伸ばしあんどろめだを舐めている 野沢省悟
茶バネ這うポストモダンの硝子窓 山田ゆみ葉
緑青をぽたりぽたりと虹彩へ くんじろう
美少女図鑑美坊主図鑑涅槃風 きゅういち
電柱の痒さが少しだけ解る 草地豊子
離れない善玉菌のふりをして 浪越靖政
湯船にはふやけた指が落ちている 一戸涼子
自意識の劇場鉈をぶらさげて 小池正博
割箸で添乗員を裏返す 筒井祥文
闘魂や埋蔵文化研究所 井上一筒
愛してますと 薬缶が滾る 松永千秋
ワイシャツの下はあられもない無法 丸山進
テロリズムこの人混みに白い息 湊圭史
用心棒に芋羊羹を連れてゆく 広瀬ちえみ
夕暮れにクロヤギさんを問いただす 兵頭全郎
聖句読むゆらぎの中の天牛虫 清水かおり
トンネルの灯り胃袋で考える 前田一石
【会員作品】
やりきれない夜はスネ夫になってやる 本間かもせり
哲学的に何のためなの食制限 斉藤幸男
まばたきをするたび殖えてゆくキャベツ 西田雅子
喃語から鳥語に変わる日暮れです いなだ豆乃助
二月の瓶にルシファー誕生 内田真理子
「川柳カード」はわたしが同人として参加している柳誌である。
同人欄は10句、会員欄は選を受けるが8句まで投句できる。
ご覧のとおり、言葉と言葉の関係性は予定調和からずれている。
社会で共有されている(はずの)気分、日常のトリビアリズム、私小説的なドラマなどを575定型で表現したい人からすれば、相当距離のある川柳がそろっていることと思う。
わたし自身、川柳をはじめた当初はこういうスタイルに少々戸惑いをおぼえた。
それでも、いまこうして川柳カードに参加している。
なぜだろうか。
それはたぶん、意味は取れないけれども何かがひたひたと沁みこんでくる作品だとか、散文ではおよそ関係し合わない言葉と言葉が出会うことで理を超えた妙味が感じられる作品に巡り合いたいからだと思う。
あるいは短歌の上の句575だけの世界に読み手として下の句77を補い、二次創作的に世界をひろげていくのが楽しいからなのかも知れない。
もちろん、予定調和に着地するよう作句されてはいないので、こういう書き方にはかならず空振りも出る。
だが、かりに10回の中に1回でも特大ホームランが飛び出すのなら、小さくまとまった打撃10回を見るよりも得した気分にならないだろうか。
少なくともわたしはそう考えてバックストロークや川柳カードに参加した。
さて、「川柳カード」8号の特集は石田柊馬による「冨二考」。
25ページにもおよぶ中村冨二にかんする論考だ。
冨二という川柳人は生前どのように川柳を捉え、また現在から見てどのような歴史的位置にあるのか。
この論考を参考に考えていきたい。
なお、中村冨二『千句集』は、なかはられいこさんのブログで閲覧できる。
そらとぶうさぎ