2015年07月27日

山芋帝国興亡史:200字川柳小説  川合大祐

二〇XX年、天より山芋あまた降る。山芋、みづからわが身を擦りてゲルと化し、人に粘り付くこと甚だし。とりわけて髭の男、痒みに悶え苦しみて狂死するもの限りなし。人口およそ半減せり。最後の髭の男子あり。朝、つひに山芋を撃たむと銃を取り、ふと思ひ立ちて髭を剃りぬ。爽やかなり。曰く「なんだ、ぼくがヒゲをそればいいだけじゃん」。爾来、男子・女子・山芋ともに栄え、銀河に人類山芋文化圏を築けりとなむ言ひ伝へける。

  山芋を撃つ寸前にヒゲを剃る  井上一筒(『川柳カード』第5号より)

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2015年07月26日

「風」97号

川柳雑誌「風」97号
編集・発行 佐藤美文

今号の「風」誌は第十六回風鐸賞の発表号。
この賞は「風」の年度賞にあたる。

風鐸賞は、十七字と十四字に関係なく最優秀三点(一名)、優秀二点(一名)、佳作一点(二名)、合計四名が複数の選者によって選ばれ、その集計された得点で正賞・準賞が決められる。
その結果、正賞が林マサ子(十四字詩にて)、準賞が齊藤由紀子(十四字詩にて)と決まった。
選者は木本朱夏、雫石隆子、新家完司、津田暹、成田孤舟の5名。

選評にて雫石隆子は、「川柳誌『風』の年度賞は、十四字詩と十七音字の作品の二通りがある。形式の違う作品の提出は、全国唯一のことであろう」と述べつつ、「ただ、選をする立場からすると難儀なことでもある」とも。
たしかにこの賞は、俳句と川柳の合同句会にも通じる他流試合的な要素があって、選者はたいへんだと思う。
だが、プロレスリングの興行でたまに異種格闘技戦が行われると面白いように、こういう賞もあった方が変化に富むのではないだろうか。

ちなみに川柳界には、選考委員の討議を経て大賞や次席を決める賞がまだないように思う。
短歌新人賞では、たとえ獲得点数が二位の連作でも、選考委員の討議によって大賞に繰り上がるケースはよくある。
川柳の選はむかしから、選者〈個人〉の識見にゆだねられるのが普通だというのは承知しているが、ひとつくらいは最終的な討議のすえ決まる賞があってもいいと思うのだが、いかがだろうか。

では、大賞と準賞各10句から3句だけ抜粋させていただく。

 千回鳴いて楽になる蝉   林マサ子
 展翅板から蝶のためいき
 座右の銘の小骨抜かれる

 春がゆらゆら夢はふらふら   齊藤由紀子
 虹の欠片を探す本棚
 薄のひげで月をくすぐる



さて、今号は第二十四回十四字詩誌上大会発表号でもある。
課題「人柄」、若月葉選の特選はつぎの句。

 どん底で知る真実の友   坂本嘉三

課題「肩」、村田倫也選の特選はつぎの句。

 河童の肩に青いほつれ毛   国吉真弘


最後に、会員作品欄の十四字詩「風鐸抄」からすこし抜粋。
なお、「風鐸抄」は佐藤美文の選を経ている。 

 五月の風で解く守秘義務   井手ゆう子
 ひとりあそびの好きな太陽   森吉留里惠
 マグリットからもらう雨傘   林マサ子
 届くメロンの箱が高そう   小倉利江
 高くなるから越えぬハードル   戸田美佐緒
 牽制球を投げる隣国   神野きっこ
 地図を持たない街の信号   伊藤三十六
 觔斗雲にも春の気まぐれ   佐藤美文
 ラララ皮むき消えた人参   中島かよ
 スタバが来ても街はお静か   渡辺梢
 ポストの音にあったときめき   齊藤由紀子
 縫い目を抜ける徘徊の母   瀧正治


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2015年07月23日

木曜日のことのは蒐集帖 E 桔梗

義眼みなはずし桔梗が揺れている    石部明

義眼をはずすという行為と「みな」という言葉の組み合わせには違和感がある。
ひとつならぬ義眼が装着されているのだろうか。
また目の数の話になるのだけれど、目はふたつが一般的なイメージで、義眼をふたつはずすとき「みな」という言葉をつかうだろうか。
やはり義眼はひとつでもふたつでもなく、あまたあるように思われる。
ふと、桔梗畑の句かと思った。はずしたのは桔梗の集合体の意思。
ひとつひとつの桔梗の義眼をはずし、集合体は桔梗の義眼をみなはずし、盲目となった花は義眼をはずして桔梗になり、揺れる。
怖いようである。

石部さんは花を中心に据えた句が多いと思う。桔梗であれば、次のような句がある。

野に老婆生まれ桔梗を抱いている   石部明
またがって桔梗の首を締めている


テレビを見ていたら、ホテルのコンシェルジュが客のリクエストで、「一輪でもさまになる花」を探していた。コンシェルジュは薔薇、と思うがすぐには揃えられず、花屋は桔梗を提案した。

なるほど、濃い青紫の星のかたちの花は、凛と存在感がある。

石部さんに桔梗が好きなんですかとお尋ねしたら、「どんな花かよう知らんのや」と言われたことがあった。
ひどく驚き、愉快でもあった。


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2015年07月21日

第3回川柳カード大会ご案内

日時 2015年9月12日(土) 13:00〜
会場 たかつガーデン(8階) たかつ(東中)
  近鉄上本町または地下鉄谷町九丁目下車
  〒543-0021 大阪市天王寺区東高津町7-11
  TEL 06-6768-3911
当日の予定
  13時 開場(ご昼食は各自お済ませください)
  13時30分 出句締切
  13時40分 開会
  【第1部】 対談 柳本々々・小池正博
  【第2部】 句会 各題2句・欠席投句拝辞
   題と選者 
  「美」     くんじろう 選 (大阪)
  「力」      中山奈々 選 (大阪)
  「和」      松永千秋 選(福岡)
  「気」      丸山進 選(瀬戸)
  「白」      石田柊馬 選(京都)
  事前投句「大」(8月15日必着)樋口由紀子選(姫路)
    (2句・大会出席者に限る・懇親会出欠明記)
    投句先 〒594-0041 和泉市いぶき野2-20-8
          小池正博 宛
  17時から 懇親会 会場・たかつガーデン・コスモス(2階)
会費 2000円(懇親会は別途6000円)
お問合せ 小池正博まで
主催 「川柳カード」


第3回川柳カード大会ご案内

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2015年07月20日

哲学者の空:200字川柳小説  川合大祐

哲人は人にものを問うたことがなかった。彼の思索の主軸は、問いというものは何かと考えることであり、それはついに問われないまま、彼は答えだけを出しつづけた。彼の答えは問いを前提としなかったから、正確であり、人々の心を蕩かすには充分だった。一時は預言者のようにもて囃され、愛した人を失くし、やがて忘れられ、サーカスの天幕で命尽きるとき、哲人は団長に問うた。「空は、本当にあるのだろうか」。答えは、なかった。

  空見てるそこに答えがあるように  ひとり静(『月刊おかじょうき』2015年3月号より)

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