2016年06月26日

第1回 川柳スープレックス前句附句会・選句結果発表

前句および附句一覧&参加者一覧

◆選句結果発表
参加者10名には前句「たまにはゾウで過ごす一日」に無記名で附句2句を提出していただき、集まった無記名20句の中から、5句選と寸評をお願いしました。
以下、得票順に出句番号・作品・作者名、選句者の名前、寸評を掲載していきます。
緑色は句を採った人の寸評、青色は句を採らなかった人の寸評です。

【5票】
G ふぁの音が途端に獣臭くなり  柳本々々
選:小野善江、丸山進、樹萄らき、江口ちかる、八上桐子
・「獣臭」がリアルです。(小野善江)
・一日象で過ごせば匂いは消える。(丸山進)
・ふぁの音がいいと思いました。(樹萄らき)
・音が獣臭いというのがおもしろい。(江口ちかる)
・あくびの時にもれる「ふぁ〜」から獣を取り戻して、本日は本能のままに。(八上桐子)

・連句ではないのだから近い意味のことばがあってもいいのかもしれませんが、ゾウと獣というつながりがありすぎると感じました。(いわさき楊子)

J おでこからアンモナイトを出すところ  竹井紫乙
選:いわさき楊子、川合大祐、江口ちかる、笹田かなえ、八上桐子
・発想が飛びすぎているが、でもありうるかもという共感に負けました。(いわさき楊子)
・あの鼻の丸まり方を、「アンモナイト」で表したところがうまい。生命史の縮図を感じます。(川合大祐)
・「おでこ」「アンモナイト」語感がかわいいです。(江口ちかる)
・「おでこから出す」の突拍子もない発想が面白かった。(笹田かなえ)
・化石状態の記憶を、ゆっくり掘り出す。波音が聴こえるよう…。(八上桐子)


【4票】
S 耳たぶに彼岸のひとを棲まわせる  江口ちかる
選:柳本々々、いわさき楊子、竹井紫乙、川合大祐
・耳たぶの巨大さが彼岸の空間の大きさにつながっているのがいいと思いました。耳はくうかんなんですね。(柳本々々)
・死を重大視すぎずに詠んだところがいいです。でも死に対して真摯に向き合うという感じも出ています。(いわさき楊子)
・「ゾウ」で「耳たぶ」なので、付き過ぎな気もしますがうまいです。(竹井紫乙)
・これはもう、直球で良いです。(川合大祐)

・観音様のような優しさがよい、このリングでのバトルはきついか。
全句とも、わくわくドキドキしました。(丸山進)


【3票】
B 目を開けて半跏思惟像歩きだす  笹田かなえ
選:丸山進、竹井紫乙、江口ちかる
・ゾウも像も歩かないと心身によくないぞ。(丸山進)
・シュール。離れ加減も一番好きです。(竹井紫乙)
・仏像の変身譚。ふしぎと人間臭いのもおもしろく。前句とも合っていますね。(江口ちかる)


D 時間線れ乱てたっい々の日なか  川合大祐
選:柳本々々、丸山進、笹田かなえ
・この句がいちばん好きでした。たぶん象になるとこういうかんじの思考になるとおもうので。こういう句をつくりたかったなあとちょっとうらやましく感じました。丸山進さんの「素」の句を思い出しました。(柳本々々)
・時間的空間的数毒的なもじの快感。(丸山進)
・この無謀とも言える表記に魅かれました。(笹田かなえ)

・DRついていけないけれど、ガンバレーと思ってしまう保護者的見方をしてしまいます。(いわさき楊子)

F いつもそうあなたはいつもそう言うの  いわさき楊子
選:柳本々々、樹萄らき、笹田かなえ
・前句をただの発話というか愚痴にしてしまったのが面白かったです。ああこういうやり方もあるのかという。前句を相対化している。(柳本々々)
・妻か同棲相手の彼女か不明ですが、女性の言葉として妙に納得してしまいました。(樹萄らき)
・「そう」を「ゾウ」に引っかけたところが笑えました。(笹田かなえ)


M 銅像の空洞にある社長室  いわさき楊子
選:丸山進、竹井紫乙、川合大祐
・社長はせこいのかカリスマなのか。(丸山進)
・広がりがよい。妄想が膨らむ。(竹井紫乙)
・象ではなく、「像」。これは目の付け所ですが、それだけではない、独自の世界観が広がっています。(川合大祐)


N サイダーや安藤忠雄とボクシング  竹井紫乙
選:川合大祐、江口ちかる、八上桐子
・安藤忠雄はボクサーだったらしいですが、この句の力点はそこではなくて、「サイダーや」という飛躍が「ゾウ」の飛躍に対応しているのだと思います。(川合大祐)
・サイダーの泡がのぼっていく感じとボクシングの動きの間に挟まれる安藤忠雄ってどういうことなんだろう。謎だけれど違和感はないのがふしぎ。(江口ちかる)
・安藤忠雄氏設計の建物のなかにいるのかとも思ったが、安藤氏本人をTVや本で見ているのでは?彼はボクサーの目をしているので、つい戦闘モードに。サイダーの泡とともにイメージも消えてゆく。(八上桐子)

・言葉のずれ具合がアリ級でノックアウト。(丸山進)
・無関係な3つのことばに腕を組みました。その無関係さがいいという昨今ではありますが。(いわさき楊子)
・安藤忠雄とボクシングの関係はわかりましたが、なぜ「サイダー」なのかがわかりませんでした。「サイダー」は季語ですか?(笹田かなえ)


O わからなくなるサバンナとバナナの差  柳本々々
選:丸山進、樹萄らき、八上桐子
・プロの象に聞くのが一番。(丸山進)
・言葉に出すと舌を噛みそうで面白かった。(樹萄らき)
・晩年のはな子を思った。せつない…。「の差」は、ない方が好きです。(八上桐子)


Q 抜け殻の僕を見せたくなかったの  小野善江
選:いわさき楊子、樹萄らき、竹井紫乙
・ちっちゃい奴と思いきや実は堂々としている。(いわさき楊子)
・男性のかっこつけの本音のようで、ちょっとなるほど、と思いました。(樹萄らき)
・@Q意味が通り過ぎるけれども、附句としてはわかりやすい。(竹井紫乙)


R Ah〜,you should go back…からだじゅうヒビ  八上桐子
選:柳本々々、川合大祐、笹田かなえ
・象的にぶっとんでいるのが好きです。象になるとからだじゅうひびをかんじながらこれくらいかっとべそうな気がするんです。英語で歌ったりとか。たぶんこれ耳でもう飛んでますよね。そらを。(柳本々々)
・「英語」が洒落たいいまわしではなく、日本語との亀裂、「ヒビ」になっているところに、奥深さを感じます。(川合大祐)
・心はもっとヒビワレテいるのでしょう。切ないです。(笹田かなえ)

・DRついていけないけれど、ガンバレーと思ってしまう保護者的見方をしてしまいます。(いわさき楊子)

【2票】
@ 猫ばかりやっているから疲れたよ  樹萄らき
選:小野善江、竹井紫乙
・猫と象!おもしろい!(小野善江)
・@Q意味が通り過ぎるけれども、附句としてはわかりやすい。(竹井紫乙)


C 思い出せそうな青をさがす鼻  八上桐子
選:小野善江、柳本々々
・青がいいです。(小野善江)
・記憶と鼻が接合したのがよかったです。「出せそうな」という記憶のぎりぎり加減もよいと思いました。けものなので。(柳本々々)


I きっともう神様だって忘れてる  小野善江
選:いわさき楊子、笹田かなえ
・神より仏より現世が一番。大胆さがみごと。(いわさき楊子)
・「ゾウ」は「憎」と読みました。(笹田かなえ)


P カミサマも阪神電車もくぐらせて  江口ちかる
選:小野善江、八上桐子
・好きな阪神電車です。(小野善江)
・映画「真夜中の弥次さん喜多さん」の、三途の川で山みたいに巨大化して泣くお初を思い出した。神も空も超越して、何かをゆるした?関西人としては、阪急じゃなくて阪神なのもツボ!(八上桐子)


【1票】
A 内定はしたがシロアリ研究所  丸山進
選:いわさき楊子
・シロアリだからゾウか。内定したからには覚悟するしかない。(いわさき楊子)

E マスコミに叩かれトイレで運を待つ  丸山進
選:小野善江
・都政には焼きたてピザが必要でした・・(小野善江)

H ワタシを棄てた男が死んだとろろ飯  笹田かなえ
選:樹萄らき
・きっぱり感とゾウの重みが彼女の気持ちを表している感じがよかったです。(樹萄らき)
・とろろ飯が怖くてびびった。(丸山進)
・「とろろ飯」の印象が強烈すぎたので、前句附としてはどうかな?と思ったのですが、裏を返せば、それだけ完成された一句なのだと思います。(川合大祐)


L しゃぼん玉ランプ絨毯どれがいい  樹萄らき
選:江口ちかる
・シャボン玉、魔法のランプ、空飛ぶ絨毯。遠くへと誘う装置ですね。(江口ちかる)

【0票】
K 真球をまた積み上げて月を見る  川合大祐


◆前句附句会を終えての雑感  飯島章友
上記のとおり、得票が最も多かったのは柳本々々さんと竹井紫乙さんの作品でした。
柳本さん、竹井さん、おめでとうございます!
お題としての前句「たまにはゾウで過ごす一日」は、「で」をどのように捉えるかで附句の内容が分かれると思います。ぱっと思いつくところでは「ゾウに乗って」「ゾウのように」「ゾウそのものに成って」などの捉え方ができそうです。また「ゾウ」と片仮名表記されているので、こちらも「象」以外の意味に捉えることができるかと思います。
「で」「ゾウ」という分かれ目から意味にパラレルワールドが生まれ、たんにウィットを競うだけでは終わらない前句附になったらオモシロそうだ。そう考えてこの前句をつくりました。私的には、さすが百戦錬磨の方々だけあって、わたしが想像した以上のパラレルワールドを生んでいただいた感じです。
今回は前句附の句会ではありましたが、川柳スープレックスとして初めての句会開催でした。提案者は川合大祐。ご存じのように前句附は川柳のルーツであり、現在でも新聞公募(参考 山陰中央新報「連歌甲子園への招待」や連句の練習として楽しまれていますが、川柳とは別のジャンルのようになっているので川合さんの提案はとても意表をつくものでした。ところが実際やってみると、お題としての前句を基点に参加者が句をつくっていく方式は、まさに現代川柳の「題詠」そのもの。川柳が前句附の遺伝子を継ぐ文芸だと実感できた気がします。
第2回目を行うとしたら是非とも俳人や歌人の方々もお誘いして一緒に遊びたいです。ただ次に行うときはなるべく得票に差が出るよう、特選3点・並選1点などとする工夫は必要かもしれません。
最後に、ご参加いただいた皆さまとご閲覧いただいた皆さまに感謝もうしあげます。


◆参加者プロフィール
・いわさき楊子
「川柳カード」会員。「川柳裸木」編集人。俳誌「花組」会員。俳句大学会員。

・江口ちかる
川柳スープレックスに参加中。

・小野善江
「点鐘の会」その他に投句しています。他流試合に燃えます(笑)。野球の中に人生が詰まっていると考える野球好き女子です。

・川合大祐
「川柳の仲間 旬」所属。「川柳スープレックス」共同執筆者。現在、第一句集準備中。

・笹田かなえ
出 身:青森県八戸市
所 属:カモミール句会 川柳展望社 川柳文学コロキュウム あさひな吟社 おかじょうき 連衆
句 集:「水になる」「お味はいかが?」
ブログ:「川柳日記 一の糸」(不定期更新)
近 況:運動不足解消のために始めたカイロプラクティックにはまっています。
趣 味:読書 ネコ
星 座:獅子座
血液型:O型

・樹萄らき
川柳の仲間 旬 に所属しています。

・竹井紫乙
びわこ番傘会員。句集『ひよこ』『白百合亭日常』。

・丸山進
川柳カード同人。ねじまき句会会員。フェニックス川柳会員。
よろしくお願いいたします。

・八上桐子
川柳大学元会員、現在は無所属。

・柳本々々
『おかじょうき』所属。ときどき象に乗って駅まで行ったりしています。

posted by 飯島章友 at 21:00| Comment(1) | 句会会場 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月25日

異貌人:200字川柳小説EX  川合大祐

今日、男が死んだ。もしかしたら明後日かもしれないが、ワタシにはわからない。蘇って来たとろろ汁でもう一度男を殺した。太陽は別に黄色くなかった。(完)と見せかけて、物語にはまだ続きがあるのだった。とろろ汁の表面の微細な波立ちが、大気を震わせて雲を呼び、降った雨は海に落ち、熱水噴出孔で反応して遺伝子を形成し、単細胞は多細胞へと進化し、陸のゾウになった。すべて一日のことである。今日だったのかはわからない。

  ワタシを棄てた男が死んだとろろ飯  (川柳スープレックス・前句附句会より)

*現時点(6月25日21時30分時点)で作者不明です。誰なのか楽しみ。前祝いと言うことで。


posted by 川合大祐 at 21:27| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月20日

第1回 川柳スープレックス前句附句会・附句一覧

【前句】
たまにはゾウで過ごす一日

【附句一覧】
@ 猫ばかりやっているから疲れたよ
A 内定はしたがシロアリ研究所
B 目を開けて半跏思惟像歩きだす
C 思い出せそうな青をさがす鼻
D 時間線れ乱てたっい々の日なか
E マスコミに叩かれトイレで運を待つ
F いつもそうあなたはいつもそう言うの
G ふぁの音が途端に獣臭くなり
H ワタシを棄てた男が死んだとろろ飯
I きっともう神様だって忘れてる
J おでこからアンモナイトを出すところ
K 真球をまた積み上げて月を見る
L しゃぼん玉ランプ絨毯どれがいい
M 銅像の空洞にある社長室
N サイダーや安藤忠雄とボクシング
O わからなくなるサバンナとバナナの差
P カミサマも阪神電車もくぐらせて
Q 抜け殻の僕を見せたくなかったの
R Ah〜,you should go back…からだじゅうヒビ
S 耳たぶに彼岸のひとを棲まわせる


【参加者一覧】
いわさき楊子 江口ちかる 小野善江 川合大祐 笹田かなえ
樹萄らき 竹井紫乙 丸山進 八上桐子 柳本々々

参加者10名には附句を無記名で2句提出していただきました。
これより参加者は5句互選をし、選んだ句への寸評もしていきます。
今週末くらいに得票結果・作者名・寸評・参加者プロフィールなどを川柳スープレックス上に掲載します。どうぞお楽しみに!

 ◇  ◇  ◇
前句附とは、「問い」としての前句(七七)にたいして「答え」としての附句(五七五)を付ける遊び。前句が五七五で附句が七七のばあいもあります。
元々は俳諧の付け合いの練習として始められましたが、のちに選者をたてて附句を公募、入賞者には景品を出す興行へと発展していきました。
【例】
 前句 切りたくもあり切りたくもなし
 附句 ぬす人をとらへてみればわが子なり

posted by 飯島章友 at 23:18| Comment(0) | 句会会場 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月19日

はしれ。:200字川柳小説  川合大祐

幸せな兄がいた。容貌も知力も体力も、親からの愛も比べものにならなかった。変異が起きたのは兄が十五歳の時だった。「俺はやめる」と言った。「この社会に、善人として参加することをやめる」。部屋に引きこもった兄に、食事を運ぶ役を引き受けた。ある日、扉の向こうから、「なあ、あの竹馬はどうしたかなあ」と聞かれた。「壊したよ」と答えた。兄さんの背骨を折るように折って、ドブに捨てたよ。兄が消えたのは次の日だった。

  壊れた竹馬 幸せだったのか兄  金子純子(「川柳びわこ」第636号より)

posted by 川合大祐 at 00:00| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月13日

第1回 川柳スープレックス前句附句会 前句発表

前句
「たまにはゾウで過ごす一日」

posted by 飯島章友 at 23:59| Comment(0) | 句会会場 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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