2016年06月19日

はしれ。:200字川柳小説  川合大祐

幸せな兄がいた。容貌も知力も体力も、親からの愛も比べものにならなかった。変異が起きたのは兄が十五歳の時だった。「俺はやめる」と言った。「この社会に、善人として参加することをやめる」。部屋に引きこもった兄に、食事を運ぶ役を引き受けた。ある日、扉の向こうから、「なあ、あの竹馬はどうしたかなあ」と聞かれた。「壊したよ」と答えた。兄さんの背骨を折るように折って、ドブに捨てたよ。兄が消えたのは次の日だった。

  壊れた竹馬 幸せだったのか兄  金子純子(「川柳びわこ」第636号より)

posted by 川合大祐 at 00:00| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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