いのこづち 内田真理子
私有地の大蒜六片十二片
古今東西薬草園の袋詰め
横書きで見ると、最初の句の「大蒜六片十二片」と最後の句の「古今東西薬草園袋詰」の「一」によって境域が感じられ、八句全体が一般世界から区切られた〈ゾーン〉のように思えてくる。また、縦書きで八句全体を見ると対称図形になっていることに気づくし、句語の「私有地」も「大蒜」も「薬草園」も「袋」も、よくよく考えれば一般世界から区切られた〈ゾーン〉を形成している。今回の群作で作中主体は、一般世界から区切られた〈ゾーン〉で動植物や赤子と触れ合い、川柳という作物を生んでいる。してみると、一般世界/川柳という境域性をも示唆されてくるのである。
ちなみにわたしは、薬用植物園で一人吟行をすることがある。そこは薬用植物ばかりでなく有毒植物も数多く栽培されているため、短歌文芸にはもってこいの場所なのだ。だって短歌は反社会性と相性がいいから。で、そこのケシ畑に行くと、複数の鉄柵で囲われている。園内でも特定ゾーンになっているのだが、それがかえって妖しい雰囲気を演出しており、わたしをいっそう作歌モードへと変換してくれるのである。
前もって聞き耳頭巾侍らせる
「聞き耳頭巾」は各地に伝わる昔話で、この頭巾を持つと動物の話が分かるようになる。「前もって」とあるから、作中主体は頭巾の働きをあらかじめ分かっているようだ。これは、動植物や赤子が一般世界とは違う〈ゾーン〉の住人であることをしっかり意識しているからではないだろうか。
村に鍛冶屋はいたのだろうか彼岸花
彼岸花の赤⇔村の鍛冶屋という連想が見てとれる。「村の鍛冶屋」は戦前からある唱歌。恥ずかしながら今回、「村 鍛冶屋」で検索して初めてこの歌を知ることになった。ただ、どこかで聞き覚えが。そうだ、幼いころよく流れていたキッコーマン・デリシャスソースのCMだ。「トマトに リンゴに ニンジン タマネギ グツグツ にこんで スパイス入れよ♪」という歌詞で、村の鍛冶屋の替え歌になっている。「彼岸花」の花言葉の中には〈転生〉〈再会〉がある。「村の鍛冶屋」はCM曲に転生し、わたしは久々にそのCM曲と記憶の中で再会できたわけである。
ちなみに、「ドリフ大爆笑」のオープニング曲も替え歌で、戦前の「隣組」が原曲だと知った。これも大人になってからのことである。
大丈夫アンモナイトな地図がある
「アンモナイト」は、形象としては殻が地図の等高線を想わせるし、また実用としては地層の地質年代を特定する指標、つまり地図になる。八句目の「古今東西薬草園の袋詰め」の「古今」に注目するとき、「アンモナイトな地図」をとおして古生代〜中生代の生き物の声をも聞こうとする作中主体が想像でき、とても面白い。