2019年08月12日

沢茱萸「ポルナレフ鳥」を読む

7月の「今月の作品」は、沢茱萸さんの「ポルナレフ鳥」だった。

氷少なめとはどの嘴が言う

最近は「氷少なめ」に対応してくれる店がある。掲句ではその注文が「嘴」から発せられた。インコ、オウム、九官鳥あたりだろうか。ただ、カフェに鳥を連れていくことはできないだろうから、家庭内でよく使われている人間の言葉をおぼえて発しているのだろう。「どの嘴が言う」という語り手のツッコミからは、この鳥への思いや距離感がおのずと伝わってくる。
鑑賞と関係ないことを書いて恐縮だが、外食の天ぷらには衣がめちゃくちゃ厚い店がある。半分以上が衣のこともある。もし「衣少なめ」で注文したらどうなるだろうか。そのぶんタネを大きくしてくれる……わけもない。


巣ごもりを指人形で紛らわす

抱卵かなにかで鳥が巣ごもりしてしまい、語り手は鳥恋しい(?)気持ちでいるのだろうか。指人形は各キャラクターを十指すべてにはめることができる。とても賑やかだ。にもかかわらず、「紛らわす」という言葉から感じられるのは、指人形を総動員しても鳥の代わりにはならないという心境だ。


オルゴール化 素知らぬポルナレフ鳥

「オルゴール化」とは何だろう。ポルナレフ鳥に言葉を仕込もうとして、語り手が同じ言葉をリピートしている状況か。あるいは、ポルナレフ鳥が、おぼえた言葉をずっと発している状況か。それとも、単にミッシェル・ポルナレフ(「シェリーに口づけ」が日本でも大ヒットしたフランスの歌手)の歌をオルゴールの曲にした、ということなのか。
また、「ポルナレフ」がミッシェル・ポルナレフのことなのか、『ジョジョの奇妙な冒険』のジャン=ピエール・ポルナレフのことなのか、こちらも判然としない。ただ、両者ともインパクトの強いビジュアル(特に髪型)をしており、キャラクター的にもはっちゃけているため、根強いファンがいる。そのポルナレフ(のような)鳥が、オルゴール化にたいして「素知らぬ」ご様子のようだ。
「素知らぬ」の意味は「知っているのに知らないふりをするさま」。したがって、語り手と鳥の関係性は、鳥が上位、語り手が下位という転倒が起こっているのが見て取れる。言い換えれば両者の関係性は、人気者とファンのそれに類似しているのである。


くちびると嘴グレープフルーツ病

「飼い主と鳥のくちづけ」と「グレープフルーツ病」とが、お互いを補完し合っている構造の句だろう。鳥から人への感染症があること、グレープフルーツを鳥に与えないほうがいいという説があること。これらの事情を勘案すれば、おのずと句のこころは感じ取れる。



posted by 飯島章友 at 23:41| Comment(0) | 今月の作品・鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする