◆はじめに この文章は2018(平成30)年8月1日発行「川柳スパイラル」第3号の特集〈現代川柳にアクセスしよう〉へ寄稿したものです。この3年間に変化したことも多いので加筆修正をしてあります。
『はじめまして現代川柳』や『金曜日の川柳』が発売されたことで川柳に関心をもつ方が増えたと思います。そこで、これから川柳を知っていきたい、川柳と関わっていきたいという方々の参考になるよう、この記事をアップすることにしました。
現在、2020年からのコロナ禍によって社会の状況が変わり、句会が休会になっていたり、句会のやり方が執筆時と違っていたりするケースもあります。しかし、いずれ騒動が終息すれば元に戻っていくとわたしは考えています。
──ここより本文──
本稿ではまず川柳グループについて筆者の知っていること、考えていることを述べ、そのあと現代川柳に関わる文献、ウェブサイト、出版社、書店をリストにしてみたい。
◆川柳グループに入るメリット 現在の川柳は、インターネットの句会やSNSで容易に同好の士を見つけられる。だが、よりディープな創作の世界に身を置きたいと思うこともあるだろう。そんなとき、結社や同人誌といった「川柳グループ」が気になってくる。
川柳グループに入るメリットとは何か。筆者が考えるにそれは五つある。
@川柳誌という自分の作品を発表する場ができる
A作品の選句や鑑賞文を通じて評価を受けられる
B句会、勉強会、吟行などの参加資格が得られる
C句会などを通じて直に作品を批評してもらえる
D川柳の読みを誌の鑑賞欄や句会から吸収できる
ちなみに、川柳グループに入らなくても参加できることなのでここには入れなかったが、川柳グループには年に一度大会を開催するところもある。川柳の大会は開放的で、別のグループの柳人も気軽に参加してくる。他流派の柳人と句会で競い合うことができる上、二次会では直に社交ができるため、とても刺激的なのだ。
◆川柳グループを選ぶ際の基準 次にどのような基準で川柳グループを選べばいいのか、筆者の考えを述べてみたい。大切なのは次の三つだ。
@自分の好きな柳人が所属していること
A鑑賞文や川柳評論が充実していること
B通える距離で句会が開かれていること
どういったことなのか少し説明しよう。
@について。自分に適した川柳グループを選ぶにあたって最も手堅いのは、自分の好きな柳人が所属しているところを選ぶことだ。なぜなら自分の好きな柳人がいるということは、自分の好みの作風が受け入れられると期待できるからだ。また自分の好きな柳人と同じ場に属することで創作意欲は格段に上がるだろうし、近くからその柳人の技術やセンスを吸収することもできるのだ。
Aについて。川柳グループは単に作品発表の場というだけではなく、「読み」の能力を涵養する場でもある。その意味で誌面に鑑賞文や評論が充実しているかどうかは重要なチェックポイントだ。それゆえ見本誌は事前に取り寄せてみたい。加えて、句会できちんと相互批評が行われているかどうかも確認したい。入会前に句会へ出ることができるのならば是非とも参加してみてほしい。
Bについて。川柳グループにおいて柳誌の次に大事なのが「句会」である。フェース・トゥ・フェースで仲間とコミュニケーションをもつことは、座の文芸といわれる川柳の醍醐味だ。自分の作品が選者によって披講され、呼名するときの快感が忘れられずに川柳を続ける人も少なくない。そのような訳で、通える距離で句会が行われているかどうかはなるべく確認しておきたい。
◆各種川柳文献の紹介【川柳アンソロジー】 アンソロジーでは通常、柳人が所属する川柳グループがプロフィール欄に記載されている。アンソロジーで好みの柳人を見つけたら、その人のいるグループのウェブサイトを閲覧したり見本誌を取り寄せたりしてほしい。
なお古い川柳アンソロジーは柳人の情報が古いばあいや、物故者、終刊した柳誌情報が掲載されているばあいもある。あらかじめ留意しておきたい。
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『はじめまして現代川柳』(2020年、小池正博 編著、書肆侃侃房、1800円+税)
戦前の新興柳人から次世代の柳人まで35名の代表的な76句と、小池正博氏による作品・作家の解説、そして現代川柳小史が収録されている。いわゆる〈現代川柳〉のアンソロジーとしては決定版といえるだろう。
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『金曜日の川柳』(2020年、樋口由紀子 編著、左右社、1600円+税)
「ウラハイ=裏『週刊俳句』」(http://hw02.blogspot.com)に連載してきた「金曜日の川柳」へ加筆修正を行い書籍化した一冊。時代や流派に偏らず選ばれた333句が収録されている。大勢の柳人とその作品を樋口氏の鑑賞文とともに知ることができる。
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『大人になるまでに読みたい15歳の短歌・俳句・川柳』全三巻(2016年、一巻編:黒瀬珂瀾、二巻編:佐藤文香、三巻編:なかはられいこ、ゆまに書房、1500円+税)
一作品ごとに選者の解説と作者のプロフィールを記載。短歌・俳句との合同アンソロジーなので留意のこと。
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『三省堂新現代川柳必携』(2014年、田口麦彦 編著、三省堂、1800円+税)
現在活躍中の柳人の川柳をテーマ別に分類し、5000句以上を収録。三省堂の川柳事典はA6判でコンパクト。気軽に持ち運べる。
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『三省堂現代女流川柳鑑賞事典』(2006年、田口麦彦 編著、三省堂、1800円+税)
126名の女性柳人について一句鑑賞、略歴、作家自選20句、作家のメッセージを掲載。
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『三省堂現代川柳鑑賞事典』(2004年、田口麦彦 編著、三省堂、1800円+税)
250名の柳人について一句鑑賞、略歴、代表句10句を掲載。
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『新世紀の現代川柳20人集』(2001年、山崎蒼平・野沢省悟 編集協力、北宋社、2500円+税)
20名の柳人の作品100句とプロフィール、メッセージ、そして山崎蒼平・荻原裕幸両氏の解説が収録されている。先に刊行された『現代川柳の精鋭たち』の二冊目的な位置づけだが、参加柳人の全体的な作風は『精鋭』とだいぶ趣きが違う。2021年3月現在、Amazonや日本の古本屋(https://www.kosho.or.jp)で中古品が手に入る。
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『現代川柳の精鋭たち28人集―21世紀へ』(2000年、樋口由紀子・大井恒行 編集協力、北宋社、2500円+税)
28名の柳人の作品100句とプロフィール、メッセージ、そして荻原裕幸・堀本吟両氏の解説が収録されている。2021年3月現在、Amazonや日本の古本屋で中古品が手に入る。『はじめまして現代川柳』や『金曜日の川柳』が出版される前はこの本が現代川柳アンソロジーの中心だった。
また手前味噌のようではあるが、筆者を含めた複数の柳人で「川柳スープレックス」というブログを運営している。その中の「今月の作品」欄では、旬の作家の新作八句およびプロフィールを掲載させていただいている。こちらもアンソロジーとして読むことができる(http://senryusuplex.seesaa.net/category/24262134-1.html)。
【句集シリーズ】 ここでは作家別の句集シリーズを紹介する。シリーズに誰の句集が入っているかは各自インターネットで調べてほしい。
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「セレクション柳人」(邑書林、1300円+税、邑書林のオンラインショップはhttp://youshorinshop.com/?mode=cate&cbid=1890002&csid=0)
ほとんどがSOLD OUTとなりつつあるので、目当てがあれば早めに入手したほうが良い。
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「川柳作家ベストコレクション」(新葉館出版、1200円+税、オンラインショップはhttps://www.shinyokan.jp/netstore/products/list?category_id=33)
『はじめまして現代川柳』の柳人とは趣きが異なる作風が多いので、サイトで紹介されている例句を参考にすると良い。
【川柳評論集】・
『川柳×薔薇』(2011年、樋口由紀子 著、ふらんす堂、1600円+税)
樋口由紀子氏が「MANO」「バックストローク」「豈」などに寄稿した川柳論、句集評、作家論、一句鑑賞が収録されている。このように書くと堅そうな本に思えるかもしれないが、エッセイに近い文体のものも多く、とても読みやすい。
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『蕩尽の文芸 川柳と連句』(2009年、小池正博 著、まろうど社、2500円+税)
「連句と川柳」「川柳論」「川柳作家論」「書評・エッセイ」「『十四字』の可能性」について小論がいくつも収録されている。短詩型文学全体を俯瞰する姿勢が貫かれており、本書を読む前と後とでは何かが変わるはずだ。『川柳×薔薇』同様に必携の評論集だと思う。
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『セレクション柳論』(2009年、小池正博・樋口由紀子 編、邑書林、1600円+税)
第1章「現代川柳の肖像」、第2章「川柳性と川柳の言葉」、第3章「感性と思考」に19名の柳論が収録されている。同書以降、これだけの人数の柳論集は出ていないと思う。邑書林ではSOLD OUTだが、2020年3月現在Amazonでは新品と中古品が売られている。
◆便利な川柳ウェブサイトの紹介・
週刊「川柳時評」(https://daenizumi.blogspot.com)
小池正博氏が運営。川柳時評をほぼ毎週更新する難業を2010年から続けている驚異的なブログ。川柳界の直近の出来事をはじめ、川柳にたいする深い考察や他分野の情報まで話題が多岐にわたっている。川柳関係者は必見。
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おかじょうき川柳社(http://www.okajoki.com)
青森を拠点にしている「おかじょうき川柳社」のホームページ。「杉野十佐一賞」「川柳データベース」「川柳いんふぉ」などコンテンツが充実しているので、現代川柳を志向する人なら月一度は訪れて情報収集したいところだ。
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毎週web句会(https://weekly-web-kukai.com)
柳人の森山文基氏が運営する川柳ウェブサイト。「川柳ブログリンク」の欄は、全国の川柳ブログやホームページが県ごとに纏められている。同じく「WEB句会リンク」の欄は、ウェブで参加できる句会や、ラジオ・テレビの川柳コーナーで、結果がウェブサイトで確認できるものが纏められている。「川柳本アーカイブ」では現在入手困難な柳誌や句集がデジタル化されており、たいへん貴重な場である。
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月刊 ★ ねじまき(https://nezimakiku.exblog.jp)
なかはられいこ氏、丸山進氏、八上桐子氏、瀧村小奈生氏らが参加する名古屋の「ねじまき句会」公式サイト。句会結果報告を中心に各柳誌のレポートもアップされている。
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そらとぶうさぎ(https://soratokito.exblog.jp)
柳人なかはられいこ氏のブログ。川上三太郎『孤独地蔵』、定金冬二『無双』、中村冨二『千句集』を読むことができ、たいへん貴重だ。
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〈あほうどり〉(http://blog.livedoor.jp/ssm51)
「フェニックス川柳会」代表で「ねじまき句会」メンバーでもある丸山進氏のブログ。更新頻度が高く、各地の川柳誌の紹介や大会報告の記事などもよく投稿されているため、川柳界の動きを知る上で参考になる。
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s/c(https://sctanshi.wordpress.com)
現代川柳を中心とした短詩ウェブサイト。短詩作品・一句鑑賞・評論などのコンテンツがある。2010年から湊圭史氏が運営。川柳スープレックスはここを大いに参考にした。
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現代川柳bot(https://twitter.com/tadayou575)
現代川柳の作品が一定間隔で自動ツイートされている。川柳にはアンソロジーが少ないだけに有用なbotだ。
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川柳bot(https://twitter.com/senryubot_)
現代川柳botとはまた違う作品が多数自動ツイートされている。
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海馬@現代川柳(https://twitter.com/umiumasenryu)
2021年1月にスタートしたばかり。こちらも川柳作品がツイートされている。
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全日本川柳協会(http://www.nissenkyou.or.jp)
サイト内の「川柳MAP」では、全国の川柳グループの情報が地域別に掲載されている。ただし協会に加盟しているグループだけが載っていると思われるので、これがすべてではないことを分かった上で参考にしたい。
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川柳人協会(https://www.senryujk.com)
サイト内の「所属吟社一覧」では、協会に加盟している川柳グループの例会開催曜日・時間、例会場所、連絡先が纏められている。ただし、ほとんどが関東のグループだ。
◆川柳が中心の出版社の紹介・
あざみエージェント(http://azamiagent.com)
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新葉館出版(https://shinyokan.jp)
◆柳誌・川柳句集が置いてある書店・
葉ね文庫(http://hanebunko.com)
大阪の「中崎町」駅近くにある。短詩型文学に関わっている人のあいだではとても有名な書店。作り手と読み手の交流の場ともなっている。
以上、みなさんが現代川柳を発見するための一助となれば幸いである。