2015年02月07日

縁側で君を殺していく つづく  樹萄らき

「何者だ」と思った。
この樹萄らき(じゅどう・らき)という、奇妙な名前の作者に対してである。
初出を見ると『川柳の仲間 旬』2000年12月号、となっている。
僕が「旬」に入る直前である。
そして、僕が「旬」に、川柳の世界に入ったきっかけのひとつは、この掲出句を含む樹萄らきの連作を読んだことなのだ。

やけっぱちになっていた。
職を失い、精神病院から出て来たばかりで、身近に友もいなかった。
そんな折、見せられた『旬』に踊った「殺」の字。
その字だけではない、句全体から放たれる「殺気」に、荒れた神経が反応したのだろう。
樹萄らきという、正体不明の人物に、「勝ちたい」と思った。
川柳など、まったく知らなかった時分である。

「殺す」であれば一瞬だ。
衝動。愛憎。
いずれにせよその高まりは快楽の絶頂に似て、いっそすがすがしく、はかない。
それが「殺していく」ではどうか。
愛憎、であるのは同じとして、いつまでもどろどろと、濃い。
それも「つづく」という。
「つづく」の前の一字空けは、ためらいではなく、この愛憎を続けるための、呼吸だ。
ためらいであるとして、それは、永遠を誓う、その儀式へのためらいかも知れない。
この誓いがあればこそ、「縁側」が永遠に続く、薄暗がりの無限地獄をイメージさせるのだ。
「縁側」は「つづく」につづき、「つづく」は「縁側」につづき、そして……。

十七音字の、円環宇宙。

その構造に僕が気付いていたかどうか、定かではない。
この句が優れているのかどうかも、実はわからない。
樹萄らきもこのころ成長の途上で、それから以後、さらに凄みのある句を発表することになるからだ。
ただ、「川柳」というものの可能性の無限さ。
僕はそれをうっすらと感じて、何かしら、「未来」を信じてみようという気になったのだった。

2001年1月、「川柳の仲間 旬」に入会した。
そこで会った「らきさん」は気さくなお姉さんだった。
(ヘンな人だ、というのは段々わかってきたが)
ちょっと拍子抜けして、でも僕は以来十四年間川柳を続けている。
今もどこかで、「樹萄らき」を追いかけているのかも知れない。
posted by 川合大祐 at 05:57| Comment(5) | 川合大祐・一句鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なんさま(K県の方言でともかくという意味)川合君(^O^)/。ところでこの句、今の時事川柳にも読める。
Posted by yo-ko at 2015年02月07日 09:52
>yo-koさま
初コメントありがとうございます! たしかにこの句は今の時事川柳にも読めますね。そういった、読むことの面白さをすこしでも書いてゆければ、と思います。
Posted by 川合大祐 at 2015年02月08日 12:12
 ともかく、開設おめでとうございます。いやあ、いきなり自分の懐かしい句が出てて、すっげーびっくりした。でもすごく有難かった。ありがとう。 ポコッとできた句を、読み手の方がこうしてその人の世界で好きなように読んでもらえる有り難さを思う。それもすごく凄い句のようになっているのが、ちょいとコワイほど。
 ああ、大祐くんのページなのでついいつものようにだらだら書いてしまった。ごめんね。これからも楽しみ半分お勉強(がんばる)として見ていきたいと思います。
Posted by らき at 2015年02月14日 09:40
 少しうろ覚えだったので控えましたが、大祐くんの
桃太郎母を憎んで鬼を斬る
 この句にすごく衝撃を受けて、すごく好きだなあと思ったことを思い出しました。今でもこの句、すごく好きですよ。
Posted by らき at 2015年02月14日 18:18
>らきさん
コメントありがとうです!
桃太郎はまた懐かしい句を……。どうもです! なかなか自分の文章が書けないのですが、ぼちぼち、つき合ってってくださいな。
Posted by 川合大祐 at 2015年02月15日 11:59
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