運命て何だ重なる縞模様 竹井紫乙
M 竹井紫乙さんの句集『ひよこ』からの一句です。この連載「勇気のための川柳処方箋」は紫乙さんの句からはじまったので、紫乙さんの句で終わりにしようと思っていたんですよね。この連載は紫乙さんの「干からびた君が好きだよ連れて行く」から始まりました。
Y この句の「重なる縞模様」がわたしはおもしろいと思うんですよね。縞模様を重ねるっていうことは場合によってはぴったり重なってきれいな〈しましま〉になることもあれば、まったくくいちがって〈まっくろ〉になることだってありますよね。つまり、「運命て」〈やってみるまではわからない〉ってことだとおもうんですよ。だからこの句は「運命て何だ」「重なる縞模様」という問答体なんだけれど、その〈答え〉がですね、「重なる縞模様」という固定化できない〈答え〉によって〈ズラす〉仕組みになってるとおもうんです。運命ってたえず流れていくじぶんじしんを流れてるままにひきうけていくことかもしれないから。
M この「勇気のための川柳処方箋」をやっていてなにか身になったことやいいこと、ふりしぼれた勇気などは、ありますか。
Y そうですね、まず近所のひとに「おはようございます」とちゃんと挨拶ができるようになりましたね。これは勇気でたからなんじゃないかと自分ではおもっています。
M あ、そうですか。それは連載しなくてもできるとよかったかもしれないですね。ほかにはどうですか。
Y 宝くじにあたりましたね。これもびっくりしました。この連載には御利益もあるのかって。
M どれくらい当たったんですか。
Y 20億ガロンですね。
M ガロンってどこの通貨なんですか。ほかにはどうですか。
Y 身長がなんと伸びたんですよ。
M どれくらい?
Y 30センチです。
M それこんど逆に高すぎませんか。
Y 勇気のでる連載をすると身長も伸びるのかってびっくりしました。
M 茶番はこれくらいにしてですね、あのほんとは100回目で最終回にしようとおもったんですが、『理想の図書館』というフランスが出しているブックガイドがあってですね、たしかそれぞれのジャンルにわけて千冊くらい古典的名著を紹介しているとてもたのしい本なんですが、たしかその本のコンセプトが〈千冊目はあなたが決める〉ってことで、千冊目の項目は空欄になっているんですよね。だからそれにならって、100回目はおのおののかたがたがもっている〈勇気の処方箋〉ということにしていただいて、99回目で終わりにすることにしました。
Y 100回目はぜひあなたが書いてください、というやつですね。
M で、かんがえてたんですが、これから夏になっていきますよね。だから、これからのシリーズは、「こわい川柳」がいいんじゃないかと。これはちなみにわたしが川柳にのめりこむきっかけとなった倉坂鬼一郎さんのアンソロジー『怖い俳句』のオマージュにもなっています。
Y なるほど。倉坂さんの『元気が出る俳句』もおもしろかったですよね。まあ99回も勇気について書くと、さすがにもうじゅうにぶんに勇気でてきますからね。自転車にもやっと乗れるようになりました。補助輪はずしました。ところで勇気が出たついでにお聞きしたいんですが、あなたいったい誰なんです?
M いやわたしもお聞きしたいんですが、──あなた、いったい、だれなんです?
生きようと手を繋いだり離したり 添田星人
