(第3回川柳カード大会 題『美』選者くんじろう 準特選/2015/9/12)
「びりっびりっびりっ」という音は、紙を裂き、裂いたものを重ね、また裂くという所作を思わせる。あたりをはばからぬ、無遠慮な音である。
軒わさんの句、「び」の音に「美」とあてている。考えてみれば「美」という字はなかなかにうさんくさい。音は濁った破裂だし、字形は淡白で、シンメトリーで下半身をふんばっている揺らぎのなさもおもむきがない。
うつくしい表情で語られる、うつくしいお言葉が裂けている。そう書かれているけれど、でもほんとうは裂けているのではなく、みているひとが語られるお言葉を裂いているのだ。「びりっびりっびりっ」と音をさせ。裂いておいて「あらあらあんなこと言っちゃって」とうふふと笑っている。
「びりっびりっびりっ」の「び」の音に「美」の字をあてる趣意は、「美」を裂く「うふふ」の気持ち。一字明けの前後の「美りっ美りっ美りっ」と「お言葉が裂けている」のふたつのフレーズは意味上のリフレインのようでもあるし、違う眺めでは、「お言葉が裂けている」状況にシュールな音響効果をほどこしているようでもある。
この句は句会の、「美」という題のもとで聞いたからいっそうおもしろかったのだと思う。題詠で他者の発想に触れる。句会っていいな、と思う。
恥ずかしながら、わたしの、「美」の句。優作的の句をとってもらいました。
階段を優作的に駆けのぼる ちかる
月夜には海まで至る美術館