席題「バケツ」近藤良樹選より
石部明さんが亡くなって3年が過ぎた。わたしが石部さんと初めてお会いしたのは、この句会のときである。当時、石部さんはお仕事でよく東京にお出でになっていたのだが、このときは仕事の合間に「乃木坂de5・7・5」に参加されるということを事前に知り、ぜひ石部明に会ってみたいと思ってわたしも同句会へ参加することにしたのだ。「川柳大学」の吉祥寺句会には一回参加させていただいたことがあるが(かばんの会が歌会で使用している会場とおなじだった)、かもめ舎の句会は初めてだったので当初は構えてしまうところもあった。でも、石部さんに加えバックストローク同人の江口ちかるさんも一緒だったので、だいぶ緊張がほぐれていった憶えがある。
以下、石部明さん、江口ちかるさん、わたしの結果を、石部さんのブログ「顎のはずれた鯨」より引用する。石部さんは二回特選になっている。わたしは川柳を始めて1年経つか経たないかのころ。作風はいまと違うだろうか、それともあまり変わっていないだろうか。石部さんがデータとして残してくださったことで、当時の自分をこうして検証できる。本当に有難い。
席題 「バケツ」 近藤良樹 選
バケツから月を逃がしてよく眠る ちかる
特選 魔物とも知らずバケツに手を入れる 明
席題 「盗む」 石部 明 選
水鏡に盗まれているワタシかな ちかる
濁音を盗みとったのは三日月 章友
なづきから名前を盗むひとつずつ ちかる
軸吟 青い蜥蜴の背中の青を盗まれる 明
◆宿題 「傷」 杉山昌善 選
正論を今も信じる古い傷 章友
闇夜にはだらりの帯のように傷 ちかる
鉄塔の傷のひとつに眠る月 ちかる
自傷した胸にも湧いてくる樹液 章友
特選 一本の線いっぽんの傷である 明
◆宿題 「海」 川瀬晶子 選
精巧な裏切りがある海の青 章友
海すこし巻きとられゆく月の夜 ちかる
産道の湾の形を振りかえる 明
脇腹のあたりとくんと海の音 ちかる
標題にした「魔物とも知らずバケツに手を入れる」は、違うグループの句会であるにもかかわらず石部明をしかと感じさせてくれる。「ぎっしりと鞄に詰めてある悪事」(『賑やかな箱』)、「びっしりと毛が生えている壷の中」(『遊魔系』)、「少年の魔物を飼っているバケツ」(『冬の犬』)といった石部さんの先行作品のパターンだ。パターンというと、近代的なオリジナル信仰の観点からは消極的に聞こえるかも知れないが、作家の個性はパターンの組み合わせだと思う。このことは先日もKabamy(かばんの会の勉強会)でレポートした。石部さんの詩想は、石部明という個性を踏まえたうえでパターン化され、そのつど一句として新鮮な姿を見せてくれる。
句会の全結果をご覧になりたい方は以下のリンクからどうぞ。
乃木坂de5・7・5
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句会が終わってから、ちかるさんやかもめ舎の方々もまじえて六本木へくり出した。そこでは石部さんに、現代川柳についての疑問をいろいろぶつけた。現代短歌で培った読み方では「バックストローク」の川柳をどうも読み解けない、とお話してみた。石部さんは、意味どおりに読み解けてしまう書き方じゃオモシロくないんだよ、と仰った。わたしは、それって俳句に近いつくり方だと想っていいんですか、と質問した。いまから思うとそうとう無神経だ。石部さんはすこし間を置いてから、そうだねぇ、最初はそう思って書いてもいいかも知れないねぇ、とお答えになった。やさしい。
今年は小池正博さんと八上桐子さんによるフリーペーパー「THANATOS 1/4」が発行された。石部明の軌跡をたどるたいへん貴重な作業だと思う。そういうまとまった資料も参考にしながら、わたしは今後も石部明について考えていきたいと思う。
石部さんに「六本木ってどこにあるの」と聞かれ、
超迷子癖のある石部さんに、並迷子癖のあるわたしがお伴して会場までたどり着いたのでした。
飯島さんは緊張されていたのですか。気づきませんでした(笑
パターンということ、興味深く。
石部さんのBS発表句を、わたしも細々とではありますが、順に読んでいます。来年はまた再開したいです。
(それにしても、わたしの、こときの句は気取ってるなぁ。恥★
懐かしいですね。
大江戸線、新宿でJRに乗り換えるとだいぶ歩くので、代々木で乗り換えて石部さんをお送りしましたが、迷子癖があったとお聞きして少しは私も役立ったかな、などと。