2015年12月20日

遠景渇仰:200字川柳小説  川合大祐

海が消滅しかけている、とニュースでやっていた。ラジオを消して提げ、裏庭の崖に回った。縦穴が黒ぐろと開いていた。いつもの通り、穴掘りの続きをはじめた。急ごう、と思った。そして夢想した。この穴が、いま消えかかっている海に届いた時、最後の海水がここに溢れだしてくるのだろう。それはどんなに痛快なことか。だが、そんなことのために穴を掘っているのではない。ラジオをつけた。何も聞こえない。海は消えたらしかった。

  海が遠すぎて穴を掘っている  前輝(『月刊おかじょうき』2015年11月号より)

posted by 川合大祐 at 00:00| Comment(0) | 川柳小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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