パルプンテ唱える村議会議長
「パルプンテ」はゲームのドラゴンクエストシリーズに登場する呪文。わたしも「川柳カード」第5号に「念のため朝はザオリク唱えるの」という川柳をつくったことがあります。ザオリクもドラクエに出てくる呪文なのです。
おみせやさんに「ひゃくまんえん」を渡す
前世紀には「はい百万円」とかいってお釣りをくれるおじさんがいましたよね。いまもいるのかな。掲句は子供の側が逆に「ひゃくまんえん」といって支払っている場面でしょうが、このやり取りだけで、普段のお店屋さんの戯れまで想起できるようになっています。短詩ならではの時間の広げ方。技ありです。
しらたきの役を拝命した四月
このあたりは「川柳スパイラル」や「川柳北田辺」に掲載されていてもおかしくない川柳ですね。
一斉に開く告別式の傘
前任のコーヒーミルがある机
子猫が入る子猫を捨てるための箱
カーテンが揺れて養育費の話
森山文基さんは川柳のさまざまな書き方にチャレンジしている方という印象があります。「米軍のフェンス内にも咲くデイゴ」は社会性の川柳です。また「花がない方が自然である花瓶」は伝統川柳的な穿ちがあります。さらに「しらたきの役を拝命した四月」は言葉をモノ化している点で現代川柳的でありましょう。でも、現時点でいちばん安定感がある書き方は、上掲4句のような写生川柳だと感じます。
ちなみにわたしは、物や事を具体的に描写することで、言外の感情なり状況なり人物像なり雰囲気なりを暗示するのが写生だと考えています。哀しい、などと直接言葉で表すよりも、じんわりと情緒のしみ込んでくるのが写生の良さです。
一句目は鮮明に映像が浮かびます。二句目は「コーヒーミル」という特徴がある物に焦点をあてたことで、前任者の人物像が浮かび上がってきます。三句目「子猫が入る」は、子猫の動作の写生とも箱の大きさの説明とも取れますが、いずれにせよ哀れなどと陳腐なことをいわずに作者の情感を伝えています。四句目、「カーテンが揺れて」という具体描写が、「養育費の話」をしなくてはいけない作者の感情の比喩として機能しています。
「君見たまへ菠薐草が伸びてゐる 麻生路郎」「畳まれて目だけになった鯉のぼり 橘高薫風」など、むかしの書き手はいい写生川柳を残しています。文基さんはいろいろな書き方ができる人だと思いますが、今後もこのような書き方を大切にしてもらいたいな、などと思うのであります。(おわり)
実体験の切り取りは作句において私がこだわっていることの一つです。今後もいろいろな書き方にチャレンジしていきますが、感情が動いた瞬間を敏感に感じ取って表現することは常に意識していきたいです。
重ねてになりますが記事にしていただきありがとうございました!
コメントありがとうございます。
私の知らぬ間に川柳環境の変化がいろいろとあったようですが、文基さまの益々のご活躍を楽しみにしております。