この本は連句人・矢崎藍さんによる「つけ句」の本です。つけ句、つまり前句が五七五なら附句として七七を、前句が七七なら附句として五七五を作るものです。要するに前句附ですね。
各章とも、一つの前句に複数の人がつけた句が掲載されています。例えばこんな感じです。何句か引用させていただきます。
好きですといわれてみたい夏の宵 孔美子
彼の化身か蚊がチクリ刺す 柴田美和
衰え知らぬ湯上がりの肌 上野喜美
花火が映る君のマジな
桃の
昼間の熱を秘めた川石 上條千史
オイとチョットで半世紀過ぎ 藤子
ハタリと変わるデジタル時計 榊原由美
本書は連句の枠内でのつけ句なので、前句とセットでなければよさが分からない句と、川柳のように一句立てで読める句があります。「ハタリと変わるデジタル時計」は上手いと思うのですが、前句が前提された句ですね。
また情緒が連句っぽく感じられる句もあれば、川柳っぽく感じられる句もあるように思います。「昼間の熱を秘めた川石」は、この中でいちばん気に入っている句なのですが、多数派の柳人が作る短句(七七句)とは趣がちがう気がします。
川柳が文芸の一分野として独立するきっかけとなったのは前句附興行です。こうしてつけ句専門の本を読むと、一句立てで鑑賞する「川柳文芸」が成立した理由を実感できるのです。と同時に、短句も十分独立できる句型だと実感できるのであります。
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